アイデアをブラッシュアップできる「ハリネズミの概念」
◆「勝てる土俵」を見つけ出し、集中して取り組む
アイデアを仕上げていく際に大切なことがあります。それは、「単純明快さ」です。
「単純明快さ」とはどういうことかについて、参考になる考え方があります。それは、『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ著、日経BP社)という書籍で紹介されている一節、「単純明快な戦略―ハリネズミの概念」です。とても有名な書籍ですので、実際に読まれた方も多いと思います。ここでは、「ハリネズミの概念」を使って、アイデアを絞っていくやり方についてお話しします。
この「ハリネズミ」という言葉は、「ハリネズミと狐」という随筆から引用されたものです。世の中には、「ハリネズミ型の人間」と「狐型の人間」がいるとの指摘です。
狐は、さまざまな戦略や、やり方を考えて、ハリネズミを捕獲しようとします。ハリネズミは、体を丸めることで自分自身を守ります。狐は計算高く、ハリネズミよりも賢いのですが、残念ながら勝つのはいつもハリネズミ。そう、「体を丸める」というシンプルなことをやっているハリネズミが勝つのです。
さて、ハリネズミの概念とは、「狐型の人間はたくさんのことを知っているのに対し、
ハリネズミ型の人間はたった1つ、肝心要(かなめ)のことを知っている」というものです。肝心要のこととは、次の3つが重なるところです。
2. 経済的原動力になるのは何か?
3. 情熱をもって取り組めるのは何か?
この3つの領域の重なり合うところを、徹底的に取り組もうというのです([図表2]参照)。
3つの領域について、もう少し説明をしましょう。
「自社が世界一になれる領域はどこか?」で最も大切なのは、世界一に「なれる(Can)」であり、「なりたい(Want)」ではないということです。自社が持っている、人やモノ、お金などのリソースで、世界一に「なれる」領域を見つけ、その領域に全力で向かうことが大切なのです。
もちろん、世界一ではなく、「狙っている業界やカテゴリーで一番」になれる、ということで構いません。あなたのアイデアを活かし、一番になれる領域かどうかが重要です。
「経済的原動力になるのは何か?」は、その領域で最も利益として貢献できる指標を選択し、その指標の達成に焦点を当て、継続的に実施することです。簡単に言うと、一番になるために継続的に目指す指標(目標)です。
「情熱をもって取り組めるのは何か?」は、必ず取り組むことができることです。こ
れも、「情熱をもって取り組もう」というようなスローガンではなく、必ず取り組むことができるという点が重要です。
◆カスタードクリーム手作りは「ハリネズミの概念」
じつは、前項のベーカリーチェーンで実施したカスタードクリームの取り組みも、「ハリネズミの概念」を使って絞り込んだものです。方眼ノートを使って、1から3までについて検討したことをまとめていきます。
【「ハリネズミの概念」を用いて検討したこと】
1. 自社が世界一になれる領域はどこか? → 「地域で一番になれる」
2. 経済的原動力になるのは何か? → 「毎日買っていただいても飽きられず、老若男女問わず愛され、販売数量が伸び、原価も低く抑えられるため利益に貢献する商品」
3. 情熱をもって取り組めるのは何か? → 「職人魂をゆさぶられる難しさと達成感がある」
この3つの領域が重なったのが、「カスタードクリームにこだわったクリームパン」
だったのです。
私は、パンづくりの専門家ではありません。むしろ圧倒的な素人でした。私がこのベーカリーチェーンの経営に携わったときは、経営状況は最悪であり、実施すべき改善テーマは多岐にわたりました。その状況下で、何から手をつけるべきかを判断するときに使ったのが、このハリネズミの概念だったのです。
やるべきアイデアを絞り込み、それを徹底的に実施することで、しっかりと利益に貢献するアイデアに仕上げる――。このハリネズミの概念は、みなさんのアイデアをブラッシュアップする際にも必ず有効なツールになります。
経営コンサルタント
株式会社シャイン&コー代表取締役社長
市原 義文