失敗につながる未知の要因は「5%」
「真の失敗原因」とは何を指すのか。筆者が書いたトラブルの原因究明に関する報告書を上司が受け取らず、何度も書き直したエピソードがある。その際、なぜ上司は「こんな内容で顧客企業の経営者に報告できるか」と筆者に言ったのか。
経営者は通常、失敗の原因を「今までになかった初めての事象や問題」のせいにしたいからだ。失敗の原因を究明したところ、「実はごく単純な理由でした。でも解決していないので、毎回同じ失敗を繰り返しています」などと外部には言いにくい。だからベンダーや部下に対し、失敗の原因として「初めての事象や問題」を探させるのである。
実際のところはどうか。失敗学会の調査では「失敗」のうち、今までになかった未知の事象はわずか5%にすぎない。残る95%は経営者の期待と裏腹に、過去から発生している既知の事象だった。
筆者が経営者にこの結果を示すと「うーん」とうなって絶句してしまう。人と時間をかけて失敗の原因究明をした結果がこれか、とぼうぜんとするのも分からなくはない。だが、まずは経営者が事実を受け入れる姿勢が肝要である。
筆者が次に経営者に伝えているのは「適切なやり方で進めれば、真の失敗原因にたどり着ける」ということだ。経営者が初めての事象や問題にこだわる背景には「真の原因が分かるはずがない」との諦めもあると思われる。現場も同じである。
プロジェクトの完了後、振り返りのミーティングで失敗の原因を究明するためにプロジェクトメンバーを招集したとする。メンバーの多くは前向きな気持ちではなく、「いまさら蒸し返さないでほしい」「そっとしておいてくれないか」といった思いが強いのではないか。
筆者も以前はそうだった。メンバーが原因究明に気乗りしないのは、真の失敗原因にたどり着けると信じていないからだ。結果的に犯人捜しになってしまい、ますます気が重くなる。犯人になりたくないのであれば「未知の事象が起こった」と報告するしかない。こうした「どうせ真の失敗原因は分からない」という諦めは思い込みにすぎない。筆者はこの点を強調したい。どんな失敗であれ、真の原因に必ずたどり着ける。
佐伯 徹
特定非営利活動法人失敗学会
理事
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