知る人ぞ知る「プライベートバンカー」…富裕層の資産管理・資産形成を担う立役者は、どのように育成されるのか?

知る人ぞ知る「プライベートバンカー」…富裕層の資産管理・資産形成を担う立役者は、どのように育成されるのか?
(画像はイメージです/PIXTA)

富裕層の資産形成に伴走する「プライベートバンカー」。なんとなくミステリアスな響きですが、じつはこの仕事には、明確に体系立てられた教育プログラムが存在します。プライベートバンカーがどのように育成されるのか、実際のプロセスを見てみましょう。公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

「プライベートバンキング教育プログラム」の実情

「プライベートバンキング教育プログラム」とは、日本証券アナリスト協会が、プライベートバンカーとして活躍するために必要な知識を体系化したものです。

 

プライベートバンカーの特徴的なスキルとして「ファミリーとビジネスの両面から顧客の課題を解決できる」という特徴的なスキルが求められることから、教育プログラムの大幅な改定が行われ、2023年4月から新しい試験が開始されました。

 

現在、「プライマリー・プライベートバンカー資格」「シニア・プライベートバンカー資格」の試験が実施されています。

 

わが国では高齢化・長寿化が進むなか、オーナー経営者の事業承継や相続に対するコンサルティングのニーズが増加しています。このような社会的要請の側面から、幅広い知識を持ち、それを使った具体的対応策を提示できるプライベートバンカー資格を持ったプロフェッショナルが求められています。

どんな教育プログラムを受けているのか?

プライベートバンキング教育プログラムは、「法人業務」と「個人業務」という両者を兼ね備えた総合的な知識を持った人材の育成を目指しています。また、弁護士や税理士などの専門家とチームを組んで業務を遂行することも検討されています。

 

このため、プライベートバンキング教育プログラムでは「顧客とのかかわりと職業倫理・行為基準」「資産の運用」「資産の承継・管理」「事業の承継」という4つの学習項目が定められています。

 

「顧客とのかかわりと職業倫理・行為基準」では、ファミリービジネスなど、オーナー経営者を中心とするプライベートバンカーの顧客との関係性や、プライベートバンキング業務を実践する上で不可欠な職業倫理や行為基準を学習します。

 

「資産の運用」では、金融資産運用や不動産運用など、オーナー経営者のファミリーミッションを達成するために必要となる資産運用について、金融資産と不動産に分けて学習します。

 

「資産の承継・管理」では、相続の法務および税務など、オーナー経営者が保有する資産を、次世代に円滑に承継するために必要となる資産管理と承継を学習します。

 

「事業の承継」は、事業価値源泉と企業価値評価、親族内承継と親族外承継など、オーナー経営者の収益の源泉であるビジネスについて、事業価値源泉の把握、企業価値評価、事業承継等を学習します。

 

プライベートバンカー教育プログラムには4つの特色があります。

 

第一に、顧客本位の観点から、全体最適アプローチで顧客の問題を解決するものであること、第二に、実務に即した実践的なケーススタディが豊富であり、「総合提案書の作成」を求める実践的な内容であること、第三に、常に最新のスキルを取得できるよう、継続教育プログラムが提供されていること、第四に、職業倫理を重視していることです。

継続学習」はプライベートバンカーの重要ミッション

プライベートバンカー資格を取得したあとも、継続学習が求められます。プライベートバンキング業務は、その学習範囲が広く、法令などの規制や取引手法も多種多様であり、日々変化が生じます。これらを遅れることなくフォローし、プライベートバンカーとしての技能を高めていくことが不可欠とされています。

 

そのため、教育プログラムでは、継続学習と資格試験を2本の柱とし、実務に則したセミナーが継続学習のメニューとして提供されているのです。

 

また、資格取得後2年という更新期間を設け、そのなかでの学習の成果をポイント制で把握する仕組みが設けられています。これにより自己研鑽を積み、スキルを向上させることで、顧客の信任を確保するためのステップとして活用されています。

2つの「プライベートバンカー資格試験」

プライベートバンカー資格試験には、2つのレベルがあります。

 

プライベートバンキング業務に初めて従事し、比較的複雑かつ広範囲の要求にも対応することが必要なバンカーは「プライマリー・プライベートバンカー資格」の試験を選択します。

 

一方で、すでにプライベートバンキング業務に関する知識を有しており、総合提案書の作成など具体的な対応策を提示することが必要なバンカーは「シニア・プライベートバンカー資格」の試験を選択することになります。

 

①プライマリー・プライベートバンカー資格

プライマリー・プライベートバンカー資格は、プライベートバンキング業務の中核的な役割を果たすバンカーの資格です。

 

この試験では、資産運用に関する基本知識が実務面から問われるとともに、資産承継・管理、事業承継の理解が不可欠となります。また、実務に要する基本知識も問われます。顧客とのかかわり、職業倫理・行為基準に関する知識も重要視されます。

 

受験対象となるのは、金融機関のプライベートバンキング部門のバンカー、あるいは営業店である程度セールス経験があり、それなりの学習をしている方、またこれからプライベートバンキング業務を担当するバンカーです。

 

ちなみに、ファイナンシャル・プランニング技能士2級取得者が次に目指す実践的な資格としても最適だとされています。

 

②シニア・プライベートバンカー資格

シニア・プライベートバンカー資格は、プライベートバンキングの専門家としての役割を担う方のための最上位資格です。

 

この試験では、プライベートバンカーとして全体最適な提案力が問われます。筆記試験の内容は「総合提案書」の作成となるため、顧客の心に響く「総合提案書」の作成が求められます。

 

受験対象者は、プライマリー・プライベートバンカー資格保有者、または日本証券アナリスト協会認定アナリスト資格保有者で、2年以上の実務経験があるバンカーです。プライベートバンキング業務に本格的に携わる方、金融機関におけるプライベートバンキング部門の管理職ないしリーダーとして活躍されるバンカーには必須の資格とされています。また、公認会計士や税理士、実践的なノウハウを磨いていきたいファイナンシャル・プランナーも対象となります。なお、ファイナンシャル・プランニング技能士1級取得者が次に目指す実践的な資格としても最適です。

プライベートバンカー資格と比較される「もうひとつの資格」

プライベートバンカー資格とよく比較される資格に「ファイナンシャル・プランナー資格」があります。両者の違いは、ファイナンシャル・プランナーは主に一般の家計を対象にパーソナルな金融知識の習得を目的としているのに対して、プライベートバンカーは主にオーナー経営者のビジネスを対象に、法人と個人を両面から専門的なアドバイスができることを目的としている点です。

 

プライベートバンカー資格は、履修する科目同士を結びつけて総合的な問題解決を目指す、全体最適を求めているため、実務に直結した内容となっています。

 

対象とする業務内容も、ファイナンシャル・プランナーは、家計診断、住宅ローン相談、老後資金準備など顧客のフロー資金での生涯収支をみるライフプランに重点を置くのに対して、プライベートバンカーは、個人の生涯収支だけでなく、ファミリーまで含めた資産運用や、資産承継、事業承継など多世代にわたるアドバイスやコンサルティングに重点を置きます。

 

そのため、プライベートバンカー試験では、ライフプラン・シミュレーションの作成ではなく、全体最適を示す総合提案書の作成が最終ゴールとなっています。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

★受験すべきプライベートバンカー資格試験についてはこちらをチェック!

プライベートバンカー(プライベートバンカー)資格試験とは何か?

 

★ファイナンシャルプランナーの職業倫理についてはこちらをチェック!

「ファイナンシャル・プランナー(FP)の職業倫理」顧客利益・守秘義務・説明義務・同意・法令遵守

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