退職金5,000万円だったが…〈ゆとり老後の夢〉が早々崩壊、頭に浮かんだ「再・就・職」の3文字。60歳・元大企業部長の“大誤算”

退職金5,000万円だったが…〈ゆとり老後の夢〉が早々崩壊、頭に浮かんだ「再・就・職」の3文字。60歳・元大企業部長の“大誤算”
(※画像はイメージです/PIXTA)

資産をたんまり持っている富裕層であっても、「老後破産」は他人事ではありません。本稿では、元大企業部長・Aさん(仮名)の事例を基に、富裕層ならではのリスクや問題点、老後破産を回避するためのプランについて見ていきましょう。株式会社ウェルス・パートナー 藤村大星氏が解説します。

退職金5,000万円のうち3,000万円を株式投資に回した結果…

都内一等地に住む60歳男性・Aさん(仮名)。元大企業部長でしたが、つい最近40年ほど勤務した会社を退任しました。現役のときは毎日遅くまで働いていたこともあり、退職後は悠々自適に暮らすことを考えています。退職金として5,000万円入りましたが、直近で特にお金を使う用事はなく、退職したことで時間もできたので、趣味として株式投資を始めることにしました。

 

今まで株式投資をした経験はありませんでしたが、退職金5,000万円のうちの3,000万円を使い、誰でも知っているような大型銘柄から小型株式まで幅広く日本や米国の個別銘柄で運用し始めました。

 

しかしAさんが株式運用を始めて数ヵ月後、新型コロナウイルスが世界で流行し、日経平均株価やS&P500などの主要指数も大きく下落。Aさんは指数ではなく個別銘柄に投資をしていたため、2,000万円ほどの大きなマイナスを被ってしまいました。毎日心が休まらず不安だけが募る日々に耐えかねて、Aさんは保有している株式をすべて売却してしまいました。

 

ところがその後、結果的に株価は大底からまた上昇。すでに売却済だったAさんはトータルで2,000万円ほどのマイナスに終わってしまい、売らなきゃよかったと後悔しつつ、「また働かなきゃいけないかもしれない」と不安な日々を送っています。

そもそも、株式投資は「Aさん向き」ではなかった

今回のAさんの資産運用の問題点は2つあると考えます。

 

問題点①「リスク許容度」を超えた資産運用をしてしまった

リスク許容度という言葉はご存じでしょうか。リスク許容度とは、「投資してマイナスが出た場合、どれくらいのマイナスまでなら売却せずに受け入れることができるか」という度合いのことを言います。

 

今回のAさんの場合は新型コロナウイルス流行による投資銘柄の価格の下落に耐えきれず売却してしまっています。このことからAさんはリスク許容度が低いにも関わらず、株式のように大きく変動する資産に投資をしていた…ということになります。

 

一般的に、リスク許容度が高い方は株式へ、低い方は債券などに投資をすることが多いです。リスク許容度を測る材料としては、もう一度コロナショックが来たとして自分ならどうするか(株価がいつ上昇するかは分からない前提で)を考えてみるとよいでしょう。どんなに株価が下がってきても上がるまで我慢できるのであれば、リスク許容度に合った投資といえます。しかし下落に耐えられそうにないと思うのであれば、その投資はリスク許容度を超えた投資になるため、大きな下落が来る前に売却したほうがいいです。

 

問題点②投資目的を決めていなかった

資産運用をするにあたって、どのような目的で投資をするのかによって投資すべき資産が異なります。投資の目的は主に3つあります。それぞれの目的を理解した上で投資をすることが大切です。

 

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<投資の目的>

(1)キャピタルゲインは、値上がり益なので、リスクを許容し資産を大きく成長させたい人に向いています。投資対象は株式がメインになるでしょう。

 

(2)インカムゲインは、投資をすることで毎年入ってくる定期収入を使いたい人に向いています。投資対象は債券や国内不動産になるでしょう。

 

(3)タックスメリットは、相続税や所得税を圧縮したい方向けです。投資対象は国内不動産や保険になります。

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一つの投資目的だけでなく、複数の投資目的を組み合わせて資産配分を構築するケースが多いです。今回のAさんの場合は、キャピタルゲインを狙う方々が投資をする「株式」に投資をしてしまっていました。Aさんの投資目的は何だったのでしょうか。

退職者の資産運用は「減らさない・守りの運用」が鉄則

Aさんのような退職された方の資産運用で大切なのは、退職金が原資のため「減らさない・守りの運用をする」ことです。

 

例えば30代で給与収入がある場合は、投資でマイナスを出したとしても給与収入でカバーできるうえ、20年から30年を見据えた長期投資が可能です。一方でAさんは、退職済みのため今後の収入源は年金しかないうえに、年齢が年齢なので20年や30年といった長期間の投資は現実的ではありません。

 

退職した方の資産運用では、大きなマイナスが出た場合に長期間運用でリカバリーするという対処が難しいため、大きなリスクを取ることはできません。ゆえに株式をたくさん持つのではなく、債券や国内不動産が中心の「守りの運用」をすべきです。

本当は「生活の足しが欲しかった」Aさん…本当に投資すべきは

今回Aさんにアドバイスするにあたっては、様々な角度から質問をすることで投資目的をはっきりさせることを重視しました。

 

なぜ株式投資を始めたのか。その理由として、当初「何となく趣味にしようと思って」と言っていたAさんでしたが、お話をしていく中で「年金だけでは不安だったので、少しでも生活の足しになればいいと思った」という本音が明かされました。

 

そして「大きな値上がりを狙うのではなく、安定的に増やしていきたい」という投資の目的も明確になったため、安定的にインカムゲインを獲得できる外国債券での投資が最適と判断しました。

 

Aさんは退職金の他に動かせる資金が合計5,000万円あったため、5,000万円の外国債券の買付のご提案をしました。

 

5,000万円×5%(年利回り)=250万円(税引前)のインカムゲインが毎年受けとれる計算になります。株式投資で出たマイナスを取り返すのには時間はかかりますが、安定的に運用できることでAさんは心のゆとりを取り戻せました。

まとめ

資産運用をする際にはリスク許容度を超えないことや、投資資金の性質や投資目的を理解し、リスクを取りすぎない運用をすることが大切です。

 

 

藤村 大星

株式会社ウェルス・パートナー ポートフォリオマネージャー

 

三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。会社経営者や医師等の富裕層への資産運用コンサルティング業務に従事。

2022年10月に株式会社ウェルス・パートナー及び株式会社ウェルス・ソリューションズに入社。資産1億円以上の富裕層向けに資産保全・管理、相続・事業承継対策等のアドバイスを行う。

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