本連載では、業界再編時代のM&Aの考え方と、M&Aを成功させて「経営者の責任」を果たし、「余生の幸せ」を手に入れるための鉄則をご紹介します。今回は、中小企業経営者がリーダーとなる可能性もある「業界再編」について見ていきます。

想定していなかったビジネスを生む「業界再編」

もうひとつ、私がオーナー経営者の皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、業界再編の本当の意義についてです。

 

業界再編が進んでいくと、勝ち組の会社やグループの規模が巨大化するだけで、自分には関係ないと考えている経営者も多いでしょう。実際に、スーパーマーケットやドラッグストア、家電量販店、医薬品卸などの業界も途中までは単なる規模の拡大、陣取り合戦と思われていました。しかし、ある規模に到達した時点から、単独資本で小さく残っている企業とM&Aでグループ化に成功した企業では、大きな違いが鮮明になってきました。

 

大手スーパーマーケットの場合は、PB商品を作ることで収益性をさらに高め、今ではネットスーパーの宅配便の拠点としての役割も担うようになりました。

 

大手ドラッグストアにおいては、ただ商品を並べて売るだけの小売業から、セルフメディケーション(自分自身で健康を管理して、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)のサポート機能を持つ地域医療の拠点に生まれ変わり始めています。

 

駐車場ビジネスのタイムズでは数が1万、1万5000件と増えていくに従い、カーシェアリングという新しいビジネスが生まれています。歩いて数分のところで安く車が借りられるのですから、ユーザーにとっては便利なサービスです。

 

またコンビニでは、当初の雑貨店のようなスタイルから規模が大きくなっていくことで、銀行のATMが置かれ、宅配サービスが始まり、コーヒーやドーナツの販売も始めました。さらに、これからはネット通販で購入した商品の引き渡しサービスもスタートします。単身者や共働きの夫婦などは好きな時間に商品を受け取ることができます。メーカーはコンビニを販売拠点のように活用し、運送業者は再配達コストを削減でき、当のコンビニは集客につながり手数料収入も見込めるわけです。おそらく、事業のスタート時には想定していなかったことではないでしょうか。

業態を超えて統合・集結し、時代を切り拓く

つまり、業界再編では大手の強者連合と中小・中堅規模の企業の間に決定的な収益力の差ができるだけでなく、それまで想定していなかった新しいビジネスが生み出され、業界の次の時代の形が創造されていきます。多くの業界では、再編が起こることによってビジネスの仕組みや内容が変わっていくのです。

 

ただ、規模の拡大を目指して同業同士で統合しているのではなく、リーダーたちは業態を超えて統合し、業界が次の時代にどうあるべきかという「未来」の実現に向けて集結しています。

 

そして現在、再編が起きている業界では、オーナー経営者であれば誰でも、そうした業界のリーダーの一員となって未来を創っていく側の人間になることができるということなのです。1人の経営者、単独の1社ではできなかったことが集結することで実現可能となり、次の時代を切り拓いていく、それが業界再編の本当の意義なのです。

 

先日、日本経済新聞社のインタビューで京セラ名誉会長の稲盛和夫氏はこのように述べています。

 

「世界中から強い企業が次々に現れるなかで、狭い市場に多くの日本企業が群雄割拠していたのでは競争に勝てない。大同団結して世界に通用する力をつけるべきで、場合によっては小異を捨てて大同につく合併のような動きがもっと進んでもいい。経営者は『一国一城のあるじ』に満足するのではなく、勇気を持って業界の再編などに取り組んでほしい」と。

本連載は、2015年9月20日刊行の書籍『「業界再編時代」のM&A戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「業界再編時代」のM&A戦略

「業界再編時代」のM&A戦略

渡部 恒郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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