前回は、M&Aを成功させるための鉄則のうち「自社の価値を高める戦略」などを取り上げました。今回も引き続き、M&Aを成功させるための鉄則のうち「外部環境に敏感になる」といった項目を見ていきます。

買い手企業のビジョンに共感できるか?

③「買い手企業の経営者の熱意とビジョンに共感する」

業界再編は、ビジョンと熱意を持った地域のリーダーが集まり主導していきます。1人の経営者や1社の企業ではできないことを、集まることによって実現することが業界再編の意義です。ですから、再編の中心となるべき経営者は、他の中小・中堅企業の経営者が賛同する姿を提示しなければなりません。

 

買い手企業にとって、高値でも譲り受けしたいと思える企業には、それだけ高く評価できる事業上のシナジー効果があるものです。だからこそ、M&Aにかける意欲や熱意を持っているのです。

 

したがって、売り手企業にとって自社を高い金額でも譲り受けしたいという企業は、それだけで優先すべき交渉相手となりますが、膝を突き合わせて最終的に話し合うべきことは、金額ではなく、お互いのビジョンや経営理念です。

 

買い手企業の掲げるビジョンに共感できないのであれば、M&Aは進めるべきではありません。逆に相手企業の経営者に直感的に賭けてみたいと感じるのなら、経験上、多くの場合でM&Aは成功します。

 

④「外部環境に敏感になる」

以前、株式を売却したオーナー(年商10億円、利益1億円)は、こんなことを言っていました。「3年前から学生が集まらず、新卒採用ができなくなった。だから引退を決意した」。

 

新卒採用ができているかどうかは売却を考えるタイミングとしては、よい試金石になります。継続的に発展している会社は、そのほとんどが毎年、新卒採用ができています。つまり、新卒採用が困難な業種は、継続性に疑義が残るので注意が必要です。

 

株式を売却したオーナーは、新卒採用ができないという業界を取り巻く環境の変化にいち早く気づき、売却を早期で決断した好例です。高収益の状況であったとしても、新卒採用ができないということは、いずれは収益にも翳りが見えてくるはずです。早めに検討を始めてM&Aで成長業種企業の一員となることで、採用問題も解決できる可能性が高くなります。

 

企業の売却や引退を決意する動機が「個人の事情」であることが多い中、「外部環境の変化」を敏感に感じ取ることができるというのも、業界再編時代に成功する経営者の共通点といえます。

早めに行いたい「オーナー社長の引退準備」

⑤「自由な時間は6年しかない!? 早めの準備が成功へのパスポート」

オーナー経営者が引退を考えるひとつのきっかけに、会社員の定年があります。60歳になると、同級生や前の職場の同僚などが同窓会やゴルフをしているのに、自分には自由な時間がないことに気づき、そろそろ引退したいと思うようになったという経営者も多くいます。

 

ところで、オーナー経営者が希望する引退の時期は65歳という声を多く聞きますが、厚生労働省が2013年に公表したデータによると、健康寿命(健康上の問題がなく日常生活を送れる年齢)は、男性が71.19歳、女性が74.21歳になっています。これから考えると、健康で活動的に動ける「第2の人生」は、男性経営者の場合、わずか6年しかないということになります。6年という期間が長いのか短いのかは個人の価値観によりますが、何ができるかと考えると、6年ではいささか短いように感じます。

 

オーナー経営者にとって、50代以降は「いつでも引退できる状態にしておく」ことが重要です。60代に入って引退しようと思っても、引き継ぎ問題などがあってそんなに簡単に引退することはできないものです。

 

経営を続けるにせよ、ハッピーリタイアするにせよ、早めの準備が大切です。まずは資本(株式)と経営(社長や役員であるということ)を分離するために、大手企業に株式を譲渡し「オーナー経営者」から「雇われ社長」になる。そして、時期を見て経営権を譲渡するという2段階で次世代へのバトンパスをしていく。近年では、そうした選択をする経営者が確実に増えています。特に優良企業の50代の若い経営者の中には、会社を自分の持ち物として執着しない、こだわらないという考えが広がってきています。

 

時代は今、大きく変化しています。オーナー経営者の皆さんには、この変革の時を絶好のチャンスととらえ、業界再編の波に乗り、M&Aで成功を手に入れていただきたいと思います。

本連載は、2015年9月20日刊行の書籍『「業界再編時代」のM&A戦略』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「業界再編時代」のM&A戦略

「業界再編時代」のM&A戦略

渡部 恒郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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