「引き際」を考えることができるのは成功者の証
M&Aは経営者人生にとって最大の決断だといえます。これまで筆者は多くの会社の事業承継のシーンに立ち会ってきました。そうした経験から言えるのは、業界再編時代のM&Aを成功させるには何点かの重要な鉄則があるということです。
最後に大切なポイントを、おさらいとしてまとめておきます。ぜひ参考にしていただき、今後の経営戦略に役立ててください。
①「業界再編時代のM&Aは勝者の選択」
身売りや経営不振など、以前はマイナスイメージでとらえられがちだったM&Aですが、今では事業が不振なために売却するというケースはほとんどありません。特に中小・中堅企業では皆無です。
なぜなら、業界再編時代のM&Aでオーナー経営者は株式の「圧倒的高値売却」と、譲渡後の企業の「飛躍的成長」の両方を実現することができるからです。つまり、今やM&Aは敗者の選択ではなく、「勝者の選択」なのです。そもそも、優良企業でなければ買い手企業は現れないのです。
もっとも、オーナー経営者が引き際について考えることができるというのは、すなわち成功の証しだともいえます。企業の平均寿命は通常30年といわれますが、2011年の「中小企業白書」によれば、起業後10年で3割の企業が市場から退出、20年後には5割の企業が退出し、30年後の企業の生存率は46%ほどになっています。
半数以上の経営者は自らの引き際を考える前に、会社経営の場から退出しなければならないという現実があります。ですから、事業の承継を考えるときまで経営者として生き残っているだけでも成功者なのです。
M&Aによってどのような相乗効果を生み出せるか?
②「自社の戦略を見極める」
M&Aを成功させた買い手企業は、以下の3つの戦略を柱にすることで大きな相乗効果を得ています。売り手企業のオーナーとしても、どのような相乗効果を生み出せるかを戦略的に考えてM&Aを進めていく必要があります。
1.市場規模拡大を狙って他地域へ進出ある地方の中核都市で創業した会社が順調に業績を伸ばしてきたが、その地域の経済規模や人口構成を考えると、これ以上成長するのは難しいと考え他地域への展開を狙ってM&Aをしていく戦略。
たとえば、三重県や岐阜県の会社が名古屋へ進出し、その後、東京と大阪へ活動範囲を広げるためにM&Aをしていくようなケースです。この戦略はM&Aでは非常に多いケースですし、成功の確率が高いものです。
2.相乗効果を最大限に高める川上・川下戦略
アパレルのメーカーや卸会社が小売チェーンとM&Aをしたり、ものづくり企業が商社と組んで一気に販路を拡大するためにM&Aをするケースなど、川上から川下までの商品の流れを押さえることで相乗効果を最大限に高めていく戦略です。
また、全国チェーンのスーパーとメーカーが業務提携をして、安くて品質のいいプライベートブランド(PB)商品を安定的に低価格で提供することで売り上げを伸ばすというケースも、こうした戦略のひとつです。
3.隣接業種への展開で仕事の幅を拡大する
リフォーム業の会社が戸建て住宅のハウスメーカーをM&Aで買収するケースや、電気工事の会社が空調システムや給排水を手掛ける会社と合併するケースなどが当てはまります。
少子高齢化に伴い今後、新築の住宅の建築数が減少していくことで住宅のリフォームが増加していきます。そこで、ハウスメーカーがこれまで手掛けた住宅のリフォームを親会社が請け負うことで相乗効果が生まれます。また、住宅の電気工事しかできなかった会社が空調や給排水工事の会社と合併することで、1社で一括して仕事を受注して仕上げることが可能となり、大きな相乗効果を生む戦略です。
さらには、国内生産だけだった製造業の企業が海外に工場がある隣接業種の企業と提携し海外展開するという戦略もあります。