<前回の記事>「医学部受験に『特別な対策』は必要ない」…元偏差値39・現役医大生が断言するワケ
医学部志望者が知っておくべき、相関関係と因果関係の区別
本編に入る前にもう1つ知っておいていただきたいこととして、「相関関係」と「因果関係」の区別があります。「相関関係」と「因果関係」を区別して考えると、よくある失敗を未然に防ぐことができます。例を出してわかりやすく説明するので、少しだけ我慢して読んでみてください。
まずは、因果関係と相関関係とは何かから説明したいと思います。
因果関係とは、「二つ以上のものの間に、原因と結果の関係があること」を指していて、相関関係とは「一方が増加する時、他方が増加もしくは減少する傾向が認められる関係のこと」を指します。
簡単に言うと、因果関係は「〇をしたから、△となった」が成り立つ関係で、相関関係は「△の人には、〇をしていた人が多い(少ない)」という関係ということです。
結果は似ていますが、それぞれの意味合いは大きく異なります。
具体的な例をもとに考えてみましょう。
アメリカのメイン州で行われた実際のある調査で、「マーガリンの消費量」と「離婚率のグラフ」が同じような傾向を示したというものがありました。
よくある間違いは、「マーガリンを食べるほど離婚しやすい」という因果関係と捉えてしまうことです。冷静に考えてみると、マーガリンをやめれば離婚を防止できるなんて関係性はおかしいことがわかると思います。しかし、グラフだけを見ると、つい因果関係があると誤解しそうになります。
この2つのグラフは、ただの相関関係です。原因と結果の繋がりはないものの、たまたま同じような傾向を示しているだけに過ぎません。
因果関係とは、「棚の角に小指を思いっきりぶつけた」から「涙が出ている」のように、物事の間に「原因」と「結果」の繋がりがあるような関係性のことを指します。
「この方法で受かりました!」は相関関係か、因果関係か
なぜこの2つの区別が重要になるかというと、受験においても、相関関係にあるものが因果関係にあるように見えてしまうことがあるからです。
例えば、「偏差値の高い大学ではピアノを弾ける人の割合が高い傾向にある」というデータは、「子どもにピアノを習わせたら偏差値の高い大学に行ける」という意味ではありません。
「ピアノを弾けるから学力が高い」という因果関係ではなく、「ピアノを習わせることができるような経済的余裕があり、さらに教育熱心な家庭の出身だと、学力が高い傾向にある」という相関関係として考えるのが自然です。
こういった例であればすぐピンとくると思いますが、因果関係と相関関係の区別ができなくて勉強の戦略を間違えてしまう受験生はたくさんいます。
特に注意すべきなのは、「合格体験記」や「優秀な同級生のアドバイス」です。
医学部に進学した先輩や、周りの成績優秀な人たちがこぞっておすすめしている、分厚くて難しい参考書があるとしましょう。これを見ると、「分厚くて難しい参考書に取り組んでいる」から「良い成績が取れる」と判断してしまいたくなります。
でも、本当は「難しい参考書をやっていること」が成績優秀になるための「原因」になっている訳ではありません。
実際のところは、「良い成績を取る」人は「難しい参考書を読む傾向が高い」という相関関係であることがほとんどです。あるいは、「もともと良い成績を取れる」から「難しい参考書を読む余裕がある」という逆の因果関係の可能性もあります。
これに注意しないまま、周りからのアドバイスを鵜呑みにして「優秀な人の勉強方法を真似して、私も難しい参考書を1から読めば良いんだ!」と判断してしまうと、高い確率で事故が起こります。
上滑りをして勉強の効率が悪くなった結果、勉強をしているつもりなのに全然成績が伸びてこない…という事態を招きやすくなるということです。
同様に、「先輩からのアドバイス」や「他人の合格体験記」も、しっかりと因果関係を考えた方がいいです。
「こんな勉強法で医学部に合格した」「医学部に合格するためには〇〇をするべき」といったように、自分がやってきたことをまるで因果関係のように伝えてしまうことは少なくありません。
合格体験記を読むときやアドバイスをもらうときは、相関関係なのか因果関係なのかを見極める力が必要と言えます。
取り入れるべきは「個人の体験談」より「検証された方法」
先ほど出てきたように、個人の体験談には因果関係がないことも多々あります。うまくいった人のやり方をそのまま真似しても、同じようにうまくいく可能性は残念ながらあまり高くはありません。
では、どうすればいいかというと、「個人の体験談ではなく、検証された方法を取り入れる」という点を意識してみましょう。
ひとくくりに「おすすめ参考書」と言っても、「合格したAさんが(たまたま)使用していた参考書」と、「この参考書を使い医学部に合格できることがデータで検証されている参考書」は全く違います。
本連載では、これまで300名以上の医学部進学者を輩出したデータをもとに、「検証された方法」のみを書いていきます。わかりやすくするために具体的な例を出すこともありますが、次回以降で紹介する内容はすべて、毎年たくさんの受験生が実行し結果を出してきたノウハウです。
初めからこのノウハウが正解とわかっていた訳ではなく、医学部に合格した卒業生のデータを基に今まで何度も改訂を重ねた結果、最終的に本連載の内容にたどり着いています。
ブログをお読みになった方からよく寄せられる質問に、「基礎が重要と書いていますが、医学部受験では応用問題の習得が必須ではないんですか」という疑問があります。
「医学部=難関」というイメージが強いので、この点を不思議に思われるのも当然です。実際、わたしたちの塾でも応用問題集に入ることを前提として指導していた時期もあったそうです。
しかし、医学部に進学した卒業生のデータを分析していくと、応用問題の習得の有無と医学部合格の関係は、実は相関関係に過ぎないということがわかりました。
「成績が良い人」は「応用問題集を使う傾向が高い」だけで、「応用問題集を使うから成績が伸びる」訳ではない、ということですね。
データを分析することで、医学部合格において因果関係となっているのは「どれだけ全教科の基礎を徹底しているか」だと判明しました。データの検証があったからこそ、「全教科基礎問題集のみの習得で医学部に進学できる」というノウハウに行き着いたと言えます。
このように、本連載では「医学部合格に本当に必要なことは何か」を分析し、データで検証した方法をみなさんにお伝えしていきたいと思います。
【執筆】綿谷 もも
医学部医学科卒。数学が大の苦手で、高3の冬に受けた模試では偏差値39を取ってしまうほど。エースアカデミーで1年間浪人し、センター試験本番で90%以上を達成、関東の難関国立医学部、難関私立医学部に合格。
医学部入学後はエースアカデミーの医学生講師として6年間受験生を指導し300人以上の医学部合格に貢献。その経験をもとに、医学部在学中に書籍『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』を執筆、出版。将来の夢は小児科医。アイドルと猫が好き。
【監修】高梨 裕介
医学部予備校エースアカデミー 塾長、医師
医師/大阪医科大学卒、初期研修修了後に創業。
中学受験経験(灘、東大寺、洛南、洛星中学に合格)。
自身の医学部受験の反省を活かし、350名以上の医学部合格者を指導。医学部合格のためのよりよい指導をより安く提供することを理念としてエースアカデミーを設立。