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医学部受験に「特別な対策」は必要ない
多くの塾や予備校では医学部に特化したテキストが使われていますし、本屋さんに行けば医学部受験用の問題集が売られたりしています。「医学部の問題は難しいから、特殊な対策をやらないとダメだ、とにかく応用力をつけることが大事なのだ」と聞いている方も多いのではないでしょうか。
「医学部には医学部受験用の特別な対策が必要」というイメージは広まっていますが、実は医学部受験において重要なのは「特別な対策」ではありません。
実際、今まで指導してきた受験生の中には、全教科基礎的な問題集のみで医学部に合格した卒業生がたくさんいます。その問題集は医学部受験生専用のオリジナルテキストではなく、本屋さんに売られているごくごく一般的なものです。
もし、本当に「特別な対策」が必要なら、この結果はあり得ないことだと思います。
もちろん、医学部受験では難問が出題されることはありますし、医学の分野に絡めた珍しい問題が出題されることもあります。
しかし、そういった特殊な問題を解けないと医学部に合格できないのかという点を考えると、その答えはNOです。合格者最低点と、出題された問題をきちんと分析してみると、難易度が高い問題を解かなくても合格点に達するケースは多々あります。
過去問に出てくる難しい問題の中には、合格者ですらほとんど解けていない問題、すなわち、解けるようにしておく必要はない問題も存在しています。
一部の問題をピックアップして、「医学部ではこんな難しい問題が出るから特別な対策が必要ですよ!」というアドバイスを信じてしまうと、本質からどんどん逸れてしまいます。
「医学部受験に特別な対策は必要ない」
この言葉を大前提として覚えておいてください。
医学部合格が難しいのは「競争相手がとにかく強い」から
先ほど、「医学部受験に特別な対策は必要ない」と言いました。それなら医学部受験って難しくなさそう、と感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、実際のところ医学部受験は難しいです。
なぜ医学部受験の難易度は高いのでしょうか。その答えはシンプルで、受験層のレベルが高いからです。
医学部受験生には、「小学生の頃から医学部を目指してずっと努力していました」「中学では学年1位で、高校はその県トップの進学校です」という人がゴロゴロいます。医学部に行って出身高校を聞いてみると、「あの有名な〇〇高校ね!」となることの多いこと多いこと…。
これは決して「進学校出身でないと医学部には合格できない」という訳ではありません。もちろん、進学校でない高校から医学部に合格する例もあります。しかし、全体で見ると、やはり進学校出身者が圧倒的に多い学部です。
スポーツで例えるとイメージしやすいかもしれません。
野球大会を開催するとなった時、勝敗に一番大きく影響するのは、「どの高校と戦うのか」という点です。いくら自分の調子がよくても、グラウンドのコンディションに恵まれていても、戦う相手が強ければ強いほど、試合に勝つのは難しくなります。
医学部受験は「大学受験」というフィールドの中で、強豪校がたくさん出場している野球大会のようなものだと考えてください。「問題が特殊」「問題の難易度が高い」というよりも、「とにかく戦う相手が強い」と捉えた方が、医学部受験の難しさを正確につかめると思います。
もし、全国のトップ層が医学部を受験しないようになったとしたら、話は大きく変わってきます。出題内容が変わらないまま受験層のレベルが下がったら、単に合格者最低点が下がるだけです。問題自体は難しくても、入試の難易度はぐっと下がります。
問題自体の難易度と受験の難易度を混同している方は、ここでしっかりと整理して認識しておきましょう。「問題の難易度は高くても、受験の難易度は比較的低い」「問題の難易度は平易でも、受験の難易度は非常に高い」といった大学はたくさんあります。
結局のところ受験は相対評価なので、「何と戦うか」ではなく「誰と戦うか」で難易度が変わります。医学部受験の難しさは、「受験層のレベルの高さにある」と認識しておくことで、正しい戦略を立てることができます。
進学校出身者が医学部受験に強い「最大の理由」は…
そもそも、進学校出身者が医学部受験に強い理由は何だと思いますか?
地頭がいいから、学校の教育システムがいいから、通っている塾のレベルが高いから…。
たしかにどれも要素の一部ではあるかもしれませんが、最も大きく影響しているのは、「環境」だと考えています。実際に進学校出身者に話を聞いてみると、進学校の環境は受験に有利に働いていることがわかります。
それでは、強さを生み出す「環境」とは何かを解説していきます。
【進学校の強み①「勉強するのが当たり前」という環境】
進学校では、ほぼ全員の生徒が「勉強に対して、一定以上の努力をしてきたし、これからも努力するのが当たり前と考えている」という特徴があります。
この特徴は、学校全体として「勉強するのが当たり前」という環境が整っていると言い換えることができます。「勉強するのが当たり前」という環境に身をおくことで、得られるメリットははかりしれません。
具体的には、勉強時間や受験勉強を始める時期、大学受験に対するモチベーション等、あらゆる点において「当たり前」の基準が高い状態です。
周りの「当たり前」のレベルが高いと、自然と自分の「当たり前」の基準は高まります。例えば、一般的な受験生よりは十分勉強していたとしても、周りに上がいることで「もっと勉強しないと」と感じ、さらに勉強時間を増やそうとする流れに繋がります。
本人たちにとっては自覚がないのであえて語られることは少ないのですが、この環境は受験に大きく影響します。
【進学校の強み②医学部受験に必要な努力量を認識している】
進学校には、模擬試験で全国ランキングに名前が載っているような「超トップ層」が存在します。そういった人が同級生や同じクラスにいると、トップ層がどのくらいすごいのかがわかります。
超トップ層には、誰がどう見ても地頭がいいのに、学校の予習復習は必ず行う、定期試験や小テストも手を抜かずに取り組む、高校1年生の頃から毎日勉強する習慣をつけている、といった人がいます。
受験生の大半が「実力」で負けているにもかかわらず、「努力の量」すら勝てていない、ということを間近で見ることができるのです。「自分より頭のいい人」が「自分より勉強している」という状況は、無意識ながらも強烈な危機感を生み出します。
こういった環境に身を置くことで、「医学部に合格するのがどのくらい難しいか」をなんとなく肌で感じることができます。
医学部志望の人がどういった成績帯なのか、普段どのくらい勉強をしているのかを知ることで、詳しく聞かなくても「医学部に必要な努力量」をなんとなく察していくのです。
余談ですが、人は「自分がやったことがないこと」や「あまり知らないこと」になると、「難しさ」がよくわからなくなるという傾向があります。
例えば、野球が好きな人であれば、甲子園に出場することがどれだけ大変で難しいかをよくよく知っていると思います。幼少期からずっと野球漬けの生活を送ってきて、強豪校に入って厳しいトレーニングを毎日継続していても、試合に出られるかどうかなんて保証できない世界です。
一方、野球のことを全然知らない人は、甲子園に出場することの難しさがわからないので、甲子園に出るにはどんな努力が必要なのかピンとこなかったりします。やったことがないことや、あまり知らないことに対し、どれだけ大変かが想像しづらいんですね。
同じように考えると、「今まであまり勉強してこなかった人」が、医学部受験がどれだけ大変かを認識するのは実は結構難しいんです。
「1年くらい死ぬ気でやれば国公立医学部くらい何とかなるだろう」と漠然と考えたまま受験に突っ込んでしまい、痛い目にあったという人はたくさんいます。もしかすると、「高校から野球を始めたけど甲子園に出場したい!」と考えるのと同じくらい、難しいチャレンジかもしれません。
受験を始める前から「医学部受験の難しさ」を何となくイメージできている、というのはアドバンテージの一つですが、進学校出身者は無意識のうちにそれを認識している、ということですね。
話を戻します。
受験において、環境の重要性はお分かりいただけたでしょうか。
繰り返しますが、「進学校からでないと医学部に行けない」のではありません。どの医学部をみても進学校以外からの合格者はいますし、実際、今まで教えてきた受験生の中にも、進学校ではない高校から難関医学部に現役合格した例はたくさんあります。
大切なのは、「勉強するのが当たり前という習慣」です。
「習慣づくり」についてはまた次回以降でも詳しく解説します。ここでは「進学校の環境=勉強するのが当たり前の環境」ということを覚えておいてください。
【執筆】綿谷 もも
医学部医学科卒。数学が大の苦手で、高3の冬に受けた模試では偏差値39を取ってしまうほど。エースアカデミーで1年間浪人し、センター試験本番で90%以上を達成、関東の難関国立医学部、難関私立医学部に合格。
医学部入学後はエースアカデミーの医学生講師として6年間受験生を指導し300人以上の医学部合格に貢献。その経験をもとに、医学部在学中に書籍『医学部受験バイブル 現役医大生からの贈り物』を執筆、出版。将来の夢は小児科医。アイドルと猫が好き。
【監修】高梨 裕介
医学部予備校エースアカデミー 塾長、医師
医師/大阪医科大学卒、初期研修修了後に創業。
中学受験経験(灘、東大寺、洛南、洛星中学に合格)。
自身の医学部受験の反省を活かし、350名以上の医学部合格者を指導。医学部合格のためのよりよい指導をより安く提供することを理念としてエースアカデミーを設立。