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困った私は、本音でぶつかることにしました。Tさんを飲みに誘い、「こういう会社にしたい」という思いを伝えました。何度も飲んでいるうちに、Tさんも本音を言ってくれるようになりました。
Tさんの本音を聞き、自分はなんて配慮の足りない社長なのかと反省しました。今、会社が存続しているのは、先代の父をはじめ、Tさんたちのお陰です。私は、その人たちに感謝もせず、新しい取り組みに着手しようとしたのです。
社員の私への不満は、Tさんのところに集まります。Tさんは、新しい取り組みの必要性は十分に承知していたのですが、社員の気持ちが1つにならないことに悩んでいたのです。企業は、良くも悪くも過去を否定して進化します。しかし、未来は過去の礎の上につくられます。このことは、社長が心得なければならない大事だと痛感したのです。
私は、社員のみんなに、改めて感謝の気持ちを伝えました。引き継いだ時に、すでに顧客がいて売上が立っていること、毎日の業務が回っていること、その基礎をつくってくれたことに感謝しました。その上で、「基礎の上に、素晴らしい未来を築きたい」と伝えました。
Tさんは部下に、「新社長に協力しろよ」と言ってくれました。Tさんと私の思いが1つになったことで、チームとの溝が埋まり、賛同者は一気に増えました。
新しいことを始めるなら、損得勘定よりも「意義」を重視
イノベーターは、損得勘定よりも意義を重視します。会社の未来にとって、社内の仲間にとって、顧客にとって、地域にとって意義があれば立ち上がります。意義は「統合プロセス」で「思い、価値観」を語り合うことで生まれます。
じっくり時間をかけ、丁寧に対話を重ねましょう。メンバーの中に、心から賛同してくれる人が1人でも現れれば、「炎の種」ができ、ムーブメントが立ち上がるでしょう。
Tさんは、ムーブメントが20%に波及した頃に退職しました。65歳を過ぎていました。私は、Tさんが退職した日のことを今でも鮮明に覚えています。花束を渡して「本当に長い間ありがとうございました。いつでも遊びに来てください」と社交辞令のような挨拶をしました。
Tさんは、会社から出ると、通勤で使ってきたスーパーカブの荷台に花束をしまい、バイクにまたがりました。その瞬間、私は、急いで靴を履き、駆け寄りました。Tさんの姿が見えなくなるまで、最敬礼で見送りたかったのです。それを見た他の社員も外に出てきて、一緒に見送りました。私にとって一生忘れられない光景です。
米澤 晋也
株式会社Tao and Knowledge代表
株式会社たくらみ屋代表
一般社団法人夢新聞協会理事長
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