(※写真はイメージです/PIXTA)

国税局査察部(通称マルサ)は、税務調査官のなかでも特に優秀な人材が集められるエリート部署で、検察官への告発を目的に強制調査を行います。調査先は多岐にわたりますが、実は「宗教法人への強制調査」は長年タブー視されていたと、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏はいいます。今回、そんな「長年のタブー」を破った大事件の経緯と裏側について、“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持つ上田氏が暴露します。

長年「宗教法人への強制調査」がタブー視されていたワケ

「身延山宿坊事件」に着手するまで、マルサでは宗教法人の強制調査はタブー視されていました。

 

宗教法人税制では、お布施など本来の宗教活動は非収益事業で、法人税の課税対象とはなりません。よって、たとえ住職がお布施を宗教法人会計に計上せず、個人的に蓄財していても、非課税の収入が漏れているだけで、漏れていた部分を宗教法人の収入に加算しても法人税の課税標準(所得)は増加しません。

 

つまり、本来の宗教活動だけを行っている宗教法人には法人税法違反は成立しないという見解です。

 

一方、住職個人が搾取したお布施は元々宗教法人のものであるため、脱税発覚後に住職がお布施を寺院に返還すれば、所得税法違反も成立しません。よって身延山宿坊事件で「お布施は非課税だが、住職が個人的に蓄財していたことから、国税局は住職の雑所得と認定したとみられる」と書いたマスコミの記事は間違いだと思われます。

 

身延山の宿坊では別当が3年で交代し、その間の宿坊の切り盛り一切が任されます。たとえ赤字になったとしても、その責任は別当に帰属するため、在職中の利益はすべてが個人に帰属する事業となることから、所得税法違反が成立する、との判断で強制調査が行われたのです。

 

以上のように、宗教法人が本来の宗教活動を行っている場合、マルサが脱税で踏み込むことは非常に難しいことです。

 

それにしても「身延山宿坊事件」の住職は、身延山からわざわざ東京の新宿まで出向いて、あちこちの銀行に仮名預金を散らばせていたというのですから、聖職者としての資質が疑われても仕方のない行為でした。

 

 

上田 二郎

僧侶/税理士

 

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※本連載は、上田二郎氏による著書『税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)より一部を抜粋・再編集したものです。

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

上田 二郎

国書刊行会

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