映画さながら…マルサが宗教法人に「強制調査」
2002年3月、宗教界に激震が走る事件が起きました。日蓮宗総本山門下の住職に東京国税局の強制調査が入りました。以下が、マスコミ各社の報道です(以降、マスコミ各社の報道は筆者がまとめたもの)
――日蓮宗総本山「身延山久遠寺」(山梨県身延町)門下の宿坊「鏡円坊」の住職(実名報道)が同寺の出張所「敬慎院」の別当(責任者)当時、お布施などを個人的に蓄財し、約3億3,000万円の所得を隠していたことが、東京国税局の強制調査(査察)でわかった。
東京国税局は所得税約1億2,000万円を脱税したとして、住職を所得税法違反で甲府地検に告発した。
関係者によると、住職は「敬慎院」の別当を勤めていた98年4月から3年間に、参拝者が払った祈とう料や供養料などのお布施を申告せず流用し、個人の所得としていた疑い。
大半は個人の銀行口座に入れられていたという。お布施は非課税だが、住職が個人的に蓄財していたことから、国税局は住職の雑所得と認定したとみられる――。
私の知る限り、マルサ(国税局査察部)が本物の僧侶に強制調査を行ったのは「身延山宿坊事件」しかありません。
映画「マルサの女」はマルサに勤務する女性査察官を主人公にして、マルサの活動を描いた作品です。「マルサの女2」では、宗教法人を隠れ蓑に巨額の脱税を働く地上げ屋や、その背後に潜む邪悪な権力者たちとマルサの攻防を描いています。伊丹十三監督の感性が、現在の宗教法人を隠れ蓑にした脱税を先取りしていた感もあります。
「マルサの女2」に描かれた世界は、あくまでも宗教法人を隠れ蓑にした脱税事件であって、本物の僧侶への強制調査ではありません。
マルサでは宗教団体に対する強制調査を過去に数件行っていますが、いわゆるカルト集団的な教団の事件だったため、マルサ内部でも本物の住職への強制調査には相当の論議があったようです。
私は当時マルサに在籍していましたが、一査察官として自分のターゲットを追う毎日でしたので、本物の住職の強制調査には強い衝撃を覚えた記憶があります。
マルサは同僚をも警戒する
マルサという組織は班単位で内偵調査を行い、内部の者に対しても隠密行動をとっていますので、隣の部門が誰を追っているのかはわかりません。
マルサの事務室でターゲットの資料を確認しているときでさえ、隣の部門の査察官が近くに寄ってくると、大きな音を立てて書類を閉じる習慣がありました。わざと大きな音をたてて書類を閉じ、班員に警戒音を発するのです。
他部門の査察官でさえ寄せ付けない閉鎖性のため、私は近くの査察官が、本物の住職を追っているという事実を知りませんでした。
私が「身延山宿坊事件」を知ったのは、強制調査の前日に行われる事件説明の後でした。私の所属する班は、この事件の応援部隊から外されていました。私の妻の実家が寺院だということは、マルサ内部では周知の事実だったため、強制調査のメンバーから外されたのかもしれません。
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