「老後2,000万円問題」から「老後55万円問題」に!?
そもそもこのデータは、金融庁の報告書では「厚生労働省資料」となっていますが、さらに元をたどれば総務省統計局が毎年公表している「家計調査報告」にある数字です。
老後2,000万円問題が話題になった2019年6月時点では、この「家計調査報告」はまだ2017年のデータまでしか公表されていませんでした。そのデータをもって2,000万円不足と表現されたのですが、[図表3]をご覧になるとおわかりのように、翌年の2018年のデータでは、収入が増えたことで、不足額は約1,500万円になっています。
さらに2019年では不足額が約1,200万円、そして何と2020年のデータによれば、その不足額はたった55万円になっているのです。つまり、「老後2,000万円問題」はいつの間にか「老後55万円問題」になってしまっているというわけです(笑)。
なぜこんなに減ったのかというと、その理由は明らかです。2,020年はコロナ禍(か)で一人10万円の「特別定額給付金」が支給されました。それも含めて、収入が年間で24万円ぐらい増えています。一方、支出に関しては、やはりコロナ禍で外出の機会が減り、旅行などにもほとんど行っていないでしょうから、年間で12万円ぐらい減少しています。
結果として、2020年だけを取ってみると「老後2,000万円問題って何?」ということになってしまったのです。こういうデータは単年度だけ取り上げても意味はありません。
2021年の同調査によると不足額は月額で約1.9万円ですから、これで計算してみると不足額は約680万円になりますので、これもまた全然違った数字になります。たまたま2017年のデータでは支出が多かったというだけですから、毎年の数字の変化を見て一喜一憂(いっきいちゆう)しても何の意味もないのです。
他人の数字は何の役にも立たない
それに、ここで取り上げている数字は全て平均です。そもそも調査されている世帯数は約8000世帯です。この数字が全ての人に当てはまるわけがないのです。もちろん傾向を見る上では有意なのかもしれませんが、しょせん平均値ですから、自分の世帯に当てはめて考えてみないと何の意味もありません。
大事なことは「老後2,000万円問題」などという、ありもしない問題に振り回されるのではなく、自分の家計や将来の収支をきちんと考えていくことなのです。
ここで言いたかったのは、数年前の「老後2,000万円騒動」の実態を知っていただき、メディアや金融機関に振り回されることなく、自分の頭で冷静に考えることが一番大事だということです。
大江 英樹
株式会社オフィス・リベルタス
取締役
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