フィリピン・マルコス大統領就任から1年
2023年6月30日で、フィリピンのマルコス大統領が就任してから最初の1年が経過し、経済学者や経済団体から、様々な評価が出てきています。全体的には、「失敗とは言えないが、成功とも言えない」といったトーンになっています。コロナの発生とそれに伴う高インフレの発生など、困難な問題が立ちはだかっているものの、マルコス大統領は、圧倒的な選挙支持を受けて当選したにもかかわらず、抜本的かつ大胆な経済改革にまだ着手できていないというが大方の評価です。
経済学者たちは、持続的な政策ではなく、食料不足や物価の高騰といった問題に一時的な処置で対処していると指摘しています。また、国が財政赤字を拡大する中、数十年放置されてきた農業改革を推し進めるのは困難とも指摘しています。一方、マルコス大統領は、記者団に対し、政府が引き続きマクロ経済の基盤を確立し、インフレとの戦いに焦点を当てていると述べています。
インフレ率は1月に8.7%とピークを迎え、5月には6.1%に緩和しました。今年のインフレ率は平均で7.5%となっており、中央銀行(BSP)の5.4%の予測を上回っています。インフレを抑制するため、BSPは2022年5月以来、利上げを425ベーシスポイント実施し、政策金利を16年ぶりの高水準である6.25%に引き上げました。
フィリピン大学経済学部教授のヴィランエヴァ氏は、BSPが利上げによってインフレを抑制しようとしたことについて、インフレの大きな要因は、農産物の供給に問題にあり、それは大統領の責任であるため、BSPの対応は限定的な効果に止まっているとしています。
食料の不足は(インフレバスケット内で)最も重要な要素ですが、これには断固とした対策が取られていおらず、政府は食品の輸入規制を一時的に緩和するなどの応急処置に頼っていて、それは一部の輸入業者にしか利益をもたらさず、カルテル化を維持しているとの評価もあります。また、中間業者を排除した農産物の生産者から消費者へのサプライチェーンの再構築を大胆に行う必要があるとの指摘も出ています。農業大臣でもあるマルコス氏は、明確な方向性を持って食料の自給自足を推進してきているとし、40年近くもの放置されてきた農業部門の改革には、まだまだ道のりは長いと、自身の初年度を評価する際に述べています。
一方、フィリピン欧州商業会議所(ECCP)は、RCEP(地域的包括的経済連携)がもたらす機会を活用するべきだとし、農業部門のさらなる強化策として、農業部門におけるイノベーションやデジタル技術の促進、米とトウモロコシ産業のさらなる自由化、持続可能な農業インフラへの投資の増加など、農食品供給チェーンを強化するための取り組みが行われるべきとしています。
さらには、フィリピンのグローバル競争力とビジネスのしやすさを向上させるよう政府に求めています。具体的には、官僚主義による効率の悪さに取り組むこと、外国所有への制約をさらに緩和すること、市場競争を強化し、参入障壁を減らすことなどの改善を求めています。
フィリピン半導体電子産業協会(SEIPI)は、マルコス大統領の初年度に合格点を与え、電子産業への外国直接投資を引き付けるための税制優遇措置法(CREATE法)を評価しつつ、さらなるインセンティブの強化と効果の評価が必要としています。またフィリピン小売業者協会(PRA)は、政府はインフラへの投資を増やすことで、小売サプライチェーンの効率を向上させ、消費者に利益をもたらすとしています。さらに非居住者観光客への付加価値税(VAT)還付制度の成立により、観光客の支出を奨励することで小売収益が増加するともしています。
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