アメリカがこれほどまでに不平等な国となったワケ
左派の嫌われ者ラリー・サマーズ元財務長官とハーバード大学の経済学者アナ・スタンスベリーが手がけた2020年の研究によると、アメリカの経済活動の状況と労働者の賃金の伸び悩みは、労働者が交渉力を失ったことと直接結びつくという。
ただし、労働者の力の喪失は、労働組合の衰退だけが理由ではない、と彼らは主張する。民間企業が株主資本主義を熱狂的に支持した結果でもあるのだ。
「株主価値の最大化こそ至上とする教義の台頭は、経営者や労働者に比べて株主の力を増大させた。企業には、労働コストを削減し、超過利潤を労働者から株主へ再分配するようにとの圧力が強くかかるようになった」と彼らは書いている。
つまりは、企業の利益が増えたとしても、従業員に渡る分は減っているということだ。冷戦終結時、労働者は雇用主のために稼いだ1ドルのうち推定11セントを受けとっていた。だがその30年後、彼らの取り分は1ドルあたり6セントにも満たなくなってしまった。個人が労働から得る見返りは半減したのだ。
「労働組合の衰退、株主の要求の高まりと権力増大、実質最低賃金の低下、労働者保護の縮小、国内外でのアウトソーシングの拡大は、労働者の権限を奪い、労働市場と経済全体に深刻な結果をもたらした」とサマーズとスタンスベリーは書いている。
今日、アメリカで進む不平等の拡大を、多くの人がグローバル化と技術革新のせいだと言うが、サマーズとスタンスベリーはこの議論は的外れだと指摘する。
過去30年間、すべての先進国がテクノロジーとグローバル化によって経済をつくりかえてきたが、労働者と資本家の貧富の差がこれほど劇的に拡大したのはアメリカだけだと述べている。アメリカがこれほどまでに不平等な国となった本当の理由は、どの国よりも株主を優遇し、どの国よりも労働組合を弱体化させたからだと。
サマーズとスタンスベリーは、「不平等の拡大と労働者の所得停滞の主たる原因は、労働者の力の低下にある」と結論づけ、この問題に対処するには、産業界と国全体が経済的繁栄へのアプローチを再検討する必要がある、とつけくわえた。
さらに彼らは「この結論は資本主義制度に疑問を投げかける」と書いた。「とりわけ、企業がどこまで株主の利益だけのために経営されるべきかという問題が大きい。組合の組織化活動を支援し、組合の権限を強化する方向へバランスを傾ける政策の必要性が示唆される」
このような政策の影響は、経済システムだけでなく、文化や政治のありようにも及ぶ。
もしあなたがまじめに働いているにもかかわらず、金銭面で周囲に遅れをとっていて、都会のエリートたちがやっぱり学歴だなどと言うのが聞こえてきたら、メリトクラシー(功績主義)の勝ち組から、(彼らの高収入の仕事が人類愛に満ちた真にすばらしいものか、世渡り上手で手に入れただけのものかはさておき)おまえには価値がない、おまえの社会貢献なんてエリートのそれに比べたらずっと劣ると言われているように感じはじめるだろう。
経済的成功と道徳的価値や社会的評価を同一視し、意義を考えずになんでも並列に比べるメリトクラシーの政治文化は危険だ。不平等が拡大すれば、人は貧しくなるだけでなく、怒りを募らせるようになるからだ。