死亡した夫の預金2,000万円と夫が知人と共同購入したマンションの持ち分…「内縁の妻」が取得する方法【弁護士が解説】

死亡した夫の預金2,000万円と夫が知人と共同購入したマンションの持ち分…「内縁の妻」が取得する方法【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

1985年5月に男女雇用機会均等法が成立するなど、1980年代以降、女性の社会進出にともない結婚観も大きく変化しました。そのようななか、さまざまな理由で「非婚」を選んだ人にとって悩みのタネとなるのが「相続問題」です。そこで本記事では、実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、内縁関係の男女の相続について解説します。

4.女性BはAの財産を取得することができるのか?

Bの財産分与における権利

BはAの相続人ではないため、当然にはA名義の預金、区分所有マンションの共有持分を取得できるわけではありません。

 

ただし、現在住んでいる賃貸アパートで居住の継続ができるかどうかについては、借地借家法36条で、「建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合」「その当時婚姻の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦と同様の関係にあった同居人があるときは」「建物の賃借人の権利義務を承継する」とされていますので、Bは現在のアパートに継続して居住できます。

 

Aの相続財産については、BはAの特別縁故者として利害関係を有する者であるため、相続財産清算人が選任されていない場合には、選任の申立てを行うことを検討します(民法952条)。

 

そして、相続人捜索の公告満了日から3か月以内に、財産分与の申立てを行います(改正民法958条の2第2項)。Bは、Aと生計を同じくしており夫婦同然の暮らしをしていたことから、特別縁故者として財産の分与を受けることができると思われます。区分所有マンションの持分については、上記のとおり、共有者Cに帰属するのではなく、まずはBへの分与の有無が検討されます。

 

Bへの財産分与が認められた場合、不動産については、Bは単独で移転登記申請ができます(昭和37年6月15日民事甲第1606号民事局長通達)。登記権利者はB、登記義務者は相続財産法人(亡A相続財産)、登記原因は「民法第958条の2の審判」(原因日は審判確定日)、審判書正本及び(審判)確定証明書が登記原因証明情報です。

 

なお、Bへの財産分与は遺贈により取得したものとみなされ、Bは相続税を支払わなければなりません(相続税法4条)。

 

区分所有マンションの持分がBに分与されなかった場合

区分所有マンションの持分について、BがCより優先するとしても、Bが当該マンションの持分取得を希望せず、持分がBに分与されなかった場合、民法255条により、Cにマンションの持分がいくのでしょうか。

 

建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます)22条1項は専有部分と敷地利用権の分離処分を禁止していることから、敷地利用権については、民法255条の適用を排除しています(区分所有法24条)。これは、専有部分(単独所有)が相続人不在で国庫に帰属した場合、敷地利用権について、敷地利用権を共有する他の共有者に民法255条が適用されてしまうと、敷地利用権の付かない国の専有部分ができてしまい不都合であるからです。

 

しかし、本件で、Cは専有部分をAと共有する者であり、Aが相続人なくして死亡した場合は、民法255条の適用により、CがAの専有部分の共有持分を取得することになります。そして、分離処分禁止の結果、Aの敷地利用権の持分はCに帰属します(区分所有法24条の適用があるため、敷地利用権の他の共有者に移転するのではありません)。

 

以上ですので、Bに財産分与されなかったAの共有持分は、Cに帰属します。帰属時期は、相続人の不存在が確定し、かつ特別縁故者への財産分与がなされないことが確定したとき、すなわち、民法958条の2第2項の期間満了日の翌日又は上記の期間内に同条1項の請求があり、かつ、分与しない旨の審判が確定した日の翌日となります。(最二小判平成元年11月24日民集43巻10号1220頁も同趣旨です。)

 

実体法上の権利移転については特別の手続きは不要ですが、不動産の権利移転を公示するためにはCは持分全部移転登記を経る必要があります。Cは相続財産法人と共同で登記申請を行います(不動産登記法60条)。登記の目的は、「亡A相続財産持分全部移転」、登記権利者はC、登記義務者は相続財産法人(亡A相続財産)、登記原因は「〇年〇月〇日特別縁故者不存在確定」(原因日は上記、平成3年4月12日民三第2398号民事局長通達)です。

 

Cが登記申請に協力しない場合、相続財産法人から、Cに対する登記引取請求権を認めた裁判例があります(東京地判平成26年11月11日判時2251号68頁)。相続財産法人の「不動産登記記録に公示された権利関係」が「現在の実体的権利関係に符合」していないので、「符合させるべく、被告に対し本件持分の全部移転登記手続を求める登記請求権を有するものと解する」と説示するものです。

 

なお、民法255条により、Cへの持分移転が認められた場合、「共有に属する財産の共有者の一人が死亡した場合においてその者の相続人がいないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じて遺贈により取得したものとして相続税を課税する」ことになります(相続税法9条)(国税庁HP)。

 

<参考文献>
・片岡武=金井繁昌=草部康司=川畑晃一『家庭裁判所における成年後見・財
産管理の実務〔第2版〕』(日本加除出版、2014年)
・野々山哲郎=仲隆=浦岡由美子共編『Q&A相続人不存在・不在者財産管理の
手引』(新日本法規、2017年)
・荒井達也『Q&A令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』(日
本加除出版、2021年)
・岡信太郎『図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』(日本実業出版社、
2021年)
・稻本洋之助=鎌野邦樹『コンメンタールマンション区分所有法〔第3版〕』(日
本評論社、2015年)
国税庁HP

 

 

東京弁護士会弁護士業務改革委員会

遺言相続法律支援プロジェクトチーム

 

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※本連載は、東京弁護士会弁護士業務改革委員会 遺言相続法律支援プロジェクトチーム編集の、『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務

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