(※写真はイメージです/PIXTA)

一般的に、非正規社員の給与事情は正社員より厳しいものだが、個人の考えにより「あえての非正規」選択の人もいる。しかし一方で、ライフスタイルの変化や、老後の資産形成を考えたときに「やっぱり正社員にならないと、まずいのでは…」と、焦りを覚えるケースもあるようだ。実情を見ていく。

「あえての非正規」という人も少なくないが…

厚生労働省『令和元年 就業形態の多様化に関する総合実態調査』によると、「なぜ非正規社員を選んだのか」との問いに対して最も多い回答が「自分の都合のよい時間に働けるから」で36.1%だった。次いで、「家庭事情との両立」「家計の補助」「専門的資格の活用」「短い通勤時間」が上位を占めていた。

 

◆非正規社員に聞いた「現在の就業形態を選んだ理由」

 

「自分の都合のよい時間に働けるから」36.1%

「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」29.2%

「家計の補助、学費等を得たいから」27.5%

「専門的な資格・技能を活かせるから」23.5%

「通勤時間が短いから」23.1%

「勤務時間や労働日数が短いから」19.9%

「自分で自由に使えるお金を得たいから」16.2%

「正社員として働ける会社がなかったから」12.8%

「より収入の多い仕事に従事したかったから」12.2%

「簡単な仕事で責任も少ないから」9.5%

「他の活動(趣味・学習等)と両立しやすいから」9.1%

「就業調整をしたいから」5.3%

「体力的に正社員として働けなかったから」4.4%

「組織に縛られたくなかったから」3.7%

 

複数回答

出所:厚生労働省『令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』より

 

就業形態別別に見ると、「契約社員(専門職)」では「専門的な資格・技能を活かせるから」が 49.9%と最も高く、次いで「正社員として働ける会社がなかったから」が 23.9%だった。「パートタイム労働者」では「自分の都合のよい時間に働けるから」が 45.4%と最も高く、次いで「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」が36.7%だった。「派遣労働者」では「正社員として働ける会社がなかったから」が 31.1%と最も高く、次いで「自分の都合のよい時間に働けるから」が 20.9%だった(図表1)。

 

 各就業形態の労働者のうち、回答があった労働者=100 出所:厚生労働省『令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』より
[図表1]主な正社員以外の労働者の現在の就業形態を選んだ理由(複数回答3つまで) 各就業形態の労働者のうち、回答があった労働者=100
出所:厚生労働省『令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』より

 

上記を見ると「正社員以外」の選択肢を、あえて選択しているケースもそれなりにあることがわかる。専門的な資格を生かすためなら、むしろ正社員より高い給与を得ている可能性もあるだろう。

 

とはいえ一般的には、正社員と非正規社員の間には、埋められない給与格差が存在する。大卒の男性で正社員と非正規社員でどれほどの給与差があるのか、厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』の平均値を見てみると、ストレートで大学を卒業後、ずっと正社員、あるいはずっと非正規社員で60歳まで働いたと仮定すると、最も年収差が生じるのは50代前半で、年間443万円もの差。生涯年収では1億0,936万円と、まさかの「億超え」だ。

 

今後「正社員になりたい」と考えている非正規社員は26.7%と4人に1人の水準となっている。雇用形態別にみると、「契約社員」が最も多く45.7%。続いて「派遣社員」が42.4%と続く(図表2)。

 

今後も会社で働きたい正社員以外の労働者計=100
[図表2]今後も会社で働きたいとする正社員以外の労働者の働き方の希望 今後も会社で働きたい正社員以外の労働者計=100
出所:厚生労働省『令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』より

「正社員になるなら、40代になる前に」が効果的なワケ

「やりたいことがあるから…」と考え、あえて非正規を選択していても、人の置かれた状況や心境は、ずっと同じではない。年齢を重ねるなかで、周囲の人たちが安定志向に変化したり、親の健康問題等が発生したタイミングで、「このままでいいのか?」という思いが胸をよぎることがある。

 

有名大学を卒業後、ずっと小説家を目指してきたという38歳の男性は語る。

 

「小説家を夢見て、アルバイトを掛け持ちしながらずっと原稿を執筆してきました。今度こそ、今度こそと思いながら、賞に応募してきましたが、さっぱりで…」

 

「生活を切り詰め、おしまいには意地になって書いていましたが、先日弟から〈兄貴、親父が倒れたぞ!〉と連絡がありまして。幸い大事には至らなかったのですが、高齢の年金生活の親がいるのに、自分は何をやっているのかと」

 

ゆうちょ財団による『第5回(2022年)家計と貯蓄に関する調査結果概要報告書』によると「公的年金でまかなえる家計支出の割合」が100%を超え、年金だけで暮らしていける世帯は21.9%に過ぎないことがわかった。つまり高齢者の8割は「年金だけでは生活できない」ことになる。

 

しかし一方で「いまさら正社員になれるのか」という焦りもあると、上記の男性はいう。

 

前出の『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、男性の同期の正社員は月収で37.8万円、賞与も含めた年収は637万円。一方、男性が大卒・非正規社員の平均的な給与を手にしているとすれば、月収は25.3万円、年収は372万円。両者には月12.5万円、年収で264万円の差が生じる。

 

大学卒業後、正社員として60歳まで働いた場合、65歳で受け取れる厚生年金は14.7万円。国民年金が満額支給だとすると月21.6万円。一方、男性がこのまま非正規社員なら、年金は月額14.3万円だ。両者の差は、月7.3万円、年間90万円弱になる。過半数の高齢者が「収入は公的年金だけ」という状況を考えると、月7万円の差はかなり大きい。

 

もし男性が39歳から正社員となって同世代と同水準の給与をもらうとすると、65歳から手にする年金は、単純計算ではあるが、厚生年金部分は13.1万円となり、国民年金と合わせると19.5万円だ。30代後半では年収で264万円もの差が生じているものの、将来の年金差は月1.5万円ほど。まだ正社員になるのを諦めるのは早いかもしれない。

 

出所:厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』より算出

出所:厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』より算出

 

ハッキリ言えるのは、正社員と非正規社員の給与差は年齢を重ねるごとに拡大し、年金にも大きく響いてくるということ。給与差が一気に広がる40代は、将来の年金額に直結する。「40代になる前に正社員」というのは、将来のリスクヘッジとして、有効な選択肢だといえるだろう。

 

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