(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化の進展で、介護問題に直面する人が増えている。介護する側・される側のいずれも問題を抱えがちだが、最近では双方の負担を軽減する介護サービスも充実してきいる。だがその一方で、昔ながらの価値観が邪魔をする側面も、いまだあるようだ。ケース例から見ていく。

子どもと同居する高齢者世帯、「大きく減少」の一方で…

北関東に暮らす50代後半の綾子さん(仮名)は、要介護2の義父を自宅で介護している。義父は認知症が次第に進行し、大声を上げる、徘徊するといった行動が増え、目が離せない状況だ。夫は多忙な会社員ということもあり、やはり会社員だった綾子さんに頭を下げて退職してもらい、自分の父親の介護を全面的に任せている。

 

「もうそろそろ、この生活も2年になろうとしています」

 

綾子さんはつぶやく。

 

「自分たちの老後のことを考え、仕事を辞めるのは嫌だとはっきり伝えていました。しかし、夫から再三にわたって義父の介護をするよう頭を下げられ、親族からは〈長男の嫁なのに…〉と厳しい目を向けられ、結局、私が折れるしかありませんでした…」

 

厚生労働省『令和3年国民生活基礎調査』によると、子と同居する高齢者は1,384万2,000人。そのうち、子夫婦と同居するのが361万9,000人、配偶者のいない子と同居するのが1,022万3,000人。子夫婦と同居する高齢者の割合は明らかに減少しているが、配偶者のいない子と同居する高齢者の割合は増加傾向にある。

 

「高齢者と子世代の同居」が減少している背景には、核家族化の進行や未婚率の上昇といった複合的な要因が考えられるが、減少しているとはいえ、やはり、現実には綾子さんのようなケースも存在する。

 

◆子と同居する65歳以上の人の推移

 

〈1989年〉

853.9万人(60.0%)/ 601.6万人(42.2%)/ 252.4万人(17.7%)

 

〈1998年〉

1,037.4万人(50.3%)/ 644.3万人(31.2%)/ 393.1万人(19.1%)

 

〈2010年〉

1,257.7万人(42.2%)/ 520.3万人(17.5%)/ 737.4万人(24.8%)

 

〈2019年〉

1,352.7万人(35.9%)/ 375.6万人(10.0%)/ 977.1万人(26.0%)

 

〈2021年〉

1,384.2万人(36.2%)/ 361.9万人(9.5%)/ 1,022.3万人(26.8%)

 

出所:厚生労働省『令和3年国民生活基礎調査』より抜粋

※ 数値左より子と同居する高齢者の人数/子夫婦と同居する人数/配偶者のいない子と同居する人数。( )内は65歳以上の人全体に占める割合。

 

いまなお残る「義親の介護は嫁」という固定観念

国立社会保障・人口問題研究所『全国家庭動向調査』によると、「年をとった親は子ども夫婦と一緒に暮らすべきだ」の問いに対する賛成割合も、低下傾向となっている。2008年には50.8%だったが、2013年は 44.6%、2018年は 34.3%。また「年老いた親の介護は家族が担うべきだ」への賛成割合も同様で、2008年63.3%、2013年では 56.7%、2018年では 11.5ポイント低下し 45.2%となっている。

 

介護に対する考え方も変化している。


厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査』から、要介護者と介護者との関係をみていくと「同居」は54.4%で前回2016年調査から4ポイントほど減少。続柄ごとも、

 

「配偶者」25.2%→23.8%

「子ども」21.8%→20.7%

「子の配偶者」9.7%→7.5%

 

と、いずれも減少傾向となっている。

 

しかし一方で「別居」の場合の続柄もみていくと、「別居の家族等」12.2%→13.6%、「事業者」13.0→12.1%と、「別居はしているものの、家族の手を借りている」項目のみ増加傾向だった。

 

子世帯、親世帯とも別居を選択したとしても、いざ介護となれば、近くに住む家族を頼るということなのだろう。

 

ちなみに、同居の場合の介護者は「男性」が35.0%、「女性」が65.0%と、圧倒的に女性の介護者が多い。配偶者の介護では、女性のほうが男性よりも平均寿命が長いことが影響していると思われ、親の介護では、有業率の低い女性に役割が回ってくるケースが多いと考えられる。

要介護者の急増で「お金があっても施設に入れない」ケースも

上記の綾子さんだが、義父の年金収入は毎月20万円ほどだという。厚生労働省によると、厚生年金受給者の平均年金額は65歳以上男性で平均17万円程度。それに比べて高い年金を受給している義父だが、現役時代の蓄えもあり、経済的な不安はないという。

 

「夫に〈義父を施設にあずけてては?〉と打診したこともありましたが、〈長男の嫁がそれでは、僕の立場が…〉といわれ、義理の叔母からも〈長男の嫁が介護放棄なんて、とんでもない!〉と…。もう逃げられません」

 

「中小企業とはいえ管理職だったのに、こんな人生になるとは…」と乾いた笑いも。古い考えが残る土地柄だから、と自分を納得させるが、介護生活の先は見えず、体力的にも精神的にもボロボロだという。

 

前出の厚生労働省の調査から介護時間が「ほぼ終日」となる同居の場合の介護者と要介護者についてみていくと、「夫を介護する妻」が最多で40.9%。「親を介護する子ども(女性)」が19.8%。「妻を介護する夫」が14.0%、「親を介護する子ども(男性)」が11.8%と続く。

 

なお、「義親を介護する妻」は7.3%と、この数年で4ポイント以上もダウンしているが、「義親を介護する夫」の割合はわずか0.4%。義親の介護においては、圧倒的に「嫁」が介護にあたるケースが多いことがわかる。

 

また一方で、いくら介護サービスや介設利用への抵抗感は減ったとしても、需要に供給が追い付かず「介護サービスを受けられない」「介護施設に入れない」といった、いわゆる「介護難民」の問題も深刻化している。

 

今後の日本において、これらの問題はさらに深刻化するだろう。国家的な対策が急がれる。

 

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