アナログすぎる不動産業界を刷新する「解決の手立て」
米国に比べ、5年遅れている日本の不動産業界
「かつては米国に比べて約10年遅れていましたが、現在は5年程度の遅れに近づいています」――。
日本の不動産業界DX(デジタルトランスフォーメーション)の現状をこう説明するのは、不動産テックのスタートアップ、リーウェイズ株式会社の社長で、不動産テック協会の代表理事を務める巻口成憲氏だ。
米国に近づいたとはいえ、まだ5年の差がある。日本の不動産DXはなぜ歩みが遅いのか。その理由は日本の不動産業界が抱える構造的な問題にあると巻口氏は指摘する。
日本の不動産業界は、大手財閥系不動産を頂点にヒエラルキーが構築され、裾野には膨大な中小零細企業がひしめく。地域の限られた不動産情報でもビジネスが成り立つうえ、紙や電話、ファクス、印鑑などアナログでのやりとりがいまだ当たり前の状態で、IT化そのものが遅れている。
IT化や情報化が遅れることで、不動産全体が不透明な業界だと一般消費者は認識している。実際、シェアハウスやワンルームマンションなどの不動産投資でトラブルが発生し、社会問題化している。
「米国の理論経済学者が提唱した『レモン市場』というものがあります。レモンは質の悪い中古車の俗語で、中古車市場は売り手と買い手の情報格差が大きく、業者側だけが有利な情報を持ち、質のいい中古車(ピーチ)を独占しているため、一般ユーザーにはレモンしか流通しないという問題です。
この問題を解決し、市場の信頼性を高めるためにはテクノロジーを駆使して情報を透明化することが重要で、これはあらゆる業界に共通します。日本の不動産業界はまさにレモン市場で、DXによる情報の透明化が求められています」
また、日本の不動産市場の構造的問題として、不動産の余剰がある。日本の世帯数は約5,400万世帯の一方、不動産の総数は約6,200万戸で、800万戸が余っている。今後は人口減少でますます余るが、半面、年間平均100万戸の新築物件が生まれている。
この背景には、日本では中古物件の流通が欧米に比べて活発でないことがある。中古物件の売買は、新築に比べてより詳細なデータや情報が必要になるが、日本では物件の査定に時間がかかる。行政のデータがアナログなためだ。
「米国の不動産市場には『MLS』という物件の売買履歴やエリア情報、市場分析などを提供する情報サービスがあり、中古不動産の取引価格の推移、その地域の犯罪率、税金情報などがボタン1つで査定できます。
日本では1物件を査定するのに15.5時間かかります。日本にも『MLS』に似た不動産流通機構が運営する「レインズ」(不動産流通標準情報システム)がありますが、一般媒介契約物件の登録が義務付けられていないため、データ量が本当の流通量の1割程度といわれています。
米国の不動産業界の労働生産性を100%とすると、日本は27%といわれ、4分の1程度の生産性です。これは日本の不動産業の大きな問題だと思っています」
MLSの豊富なデータを活用することで、米国では過去20年間に、Zillow、REDFIN、Airbnb、WeWork、Opendoor、Compassなどのスタートアップが続々登場し、時価総額10億ドルを超えるユニコーン企業も現れている。
日本の不動産業界を刷新し得る「不動産テック」
とはいえ、前述のように日米の格差は5年ほどに縮まってきた。日本でも2015年あたりから不動産テックのプレーヤーが増加している。不動産テック協会のカオスマップ※で見ると、現在約430のプレーヤーが存在する。
※ 不動産テック カオスマップ(作成:一般社団法人不動産テック協会)
ところが、コロナ禍の2022年に急減に転じた。巻口氏は、「不動産市場はDXのブルーオーシャンということで、テックベンチャーなどが参入してきましたが、データベース基盤が不十分なことなどもあり、ビジネス展開が難しくなってきました。そうしたなかで、いまは健全な淘汰が起きている状態だと私は理解しています」と説明する。
淘汰が進む一方で、コロナ禍で在宅ワークなどが増えたことを背景に、VR、AR、スペースシェアリング、クラウドファンディングなどが増加している。
「国土交通省が中心となり、現在、不動産IDの策定を進めており、1つひとつの不動産にナンバリングを行い、情報を一元化しようとしています。不動産テック協会も足並みをそろえています。不動産業界のDX推進に向けた取り組みとして期待しています」
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