(写真はイメージです/PIXTA)

足元、世界的なインフレ圧力の高まりから、日本でも多数の商品・サービスが値上がりし、私たちの家計を圧迫しています。ただ、こうした値上げは一過性で、「あと2年もすれば元に戻る」と、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。その根拠とは、みていきましょう。

金融市場では「物価鎮静化」が織り込まれている

タイトな労働需給の下で賃金上昇下落、賃金上昇の主因は供給制約であった

また賃金上昇は、平均時給がピークアウトしている(図表2)。

 

[図表2]米国平均時給推移
[図表2]米国平均時給推移

 

労働需給の悪化と失業率上昇が起きていないのに賃金インフレが鈍化した理由として、

 

①賃金は生活コストの投影的要素があり、昨年までのインフレが自動的に投影された

②サプライチェーン混乱の一環としてトラック運転手や接客業の人手不足が顕在化したが、それが解消されつつある

③高賃金セクターの金融、情報産業などでAIによる労働代替が起き、賃金下落圧力が起きていること

 

などが考えられる(図表3)。

 

[図表3]米国賃金上昇率格差(大卒-高卒未満)
[図表3]米国賃金上昇率格差(大卒-高卒未満)

 

今後の引き締めの効果、銀行危機による融資厳格化などにより、労働需給は緩和していこう。賃金上昇圧力の顕著な低下が想定される。

 

現在最大の物価上昇の56%の寄与を占めている住宅コストも、利上げにより住宅価格が大きく低下しており、1年後には半減以下になるだろう。

 

ただ、米国住宅は基本的に供給不足で、空き室率は大きく低下している。金融引き締めにより新規住宅建設が抑制され続ければ、逆に住宅不足と価格上昇を加速しかねない、というジレンマがある(図表4)。この点からも、米国利上げはインフレ抑制に有効ではないとも結論付けられよう。

 

[図表4]米国住宅事情
[図表4]米国住宅事情

 

金融市場で織り込み済みの2%台へのインフレ回帰

以上の物価沈静化はすでに金融市場には織り込まれている。

 

物価連動債利回りから逆算される期待インフレ率は、2年後1.9%、5年後2.1%、10年後2.2%とほぼコロナパンデミック前の水準に低下している(図表5)。

 

[図表5]金融市場が織り込む米国期待インフレ率(物価連動債から逆算)
[図表5]金融市場が織り込む米国期待インフレ率(物価連動債から逆算)

 

執拗に物価警戒にこだわり続けるFRBと金融市場の温度差が議論されるが、FRBは本来一過性であるインフレが根付かないようにとの予防的引き締めを行っているのであり、現在は実体以上にインフレリスクを強調するバイアスを強く持っている。

 

FRBはいずれかの時点で姿勢を急転回させるだろう。

 

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武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年5月16日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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