金融市場では「物価鎮静化」が織り込まれている
タイトな労働需給の下で賃金上昇下落、賃金上昇の主因は供給制約であった
また賃金上昇は、平均時給がピークアウトしている(図表2)。
労働需給の悪化と失業率上昇が起きていないのに賃金インフレが鈍化した理由として、
①賃金は生活コストの投影的要素があり、昨年までのインフレが自動的に投影された
②サプライチェーン混乱の一環としてトラック運転手や接客業の人手不足が顕在化したが、それが解消されつつある
③高賃金セクターの金融、情報産業などでAIによる労働代替が起き、賃金下落圧力が起きていること
などが考えられる(図表3)。
今後の引き締めの効果、銀行危機による融資厳格化などにより、労働需給は緩和していこう。賃金上昇圧力の顕著な低下が想定される。
現在最大の物価上昇の56%の寄与を占めている住宅コストも、利上げにより住宅価格が大きく低下しており、1年後には半減以下になるだろう。
ただ、米国住宅は基本的に供給不足で、空き室率は大きく低下している。金融引き締めにより新規住宅建設が抑制され続ければ、逆に住宅不足と価格上昇を加速しかねない、というジレンマがある(図表4)。この点からも、米国利上げはインフレ抑制に有効ではないとも結論付けられよう。
金融市場で織り込み済みの2%台へのインフレ回帰
以上の物価沈静化はすでに金融市場には織り込まれている。
物価連動債利回りから逆算される期待インフレ率は、2年後1.9%、5年後2.1%、10年後2.2%とほぼコロナパンデミック前の水準に低下している(図表5)。
執拗に物価警戒にこだわり続けるFRBと金融市場の温度差が議論されるが、FRBは本来一過性であるインフレが根付かないようにとの予防的引き締めを行っているのであり、現在は実体以上にインフレリスクを強調するバイアスを強く持っている。
FRBはいずれかの時点で姿勢を急転回させるだろう。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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