増加の一途をたどる「老老介護」の大問題
厚生労働省『介護給付費等実態統計月報』等から年齢別に要介護認定者の割合を確認すると、65歳以下では全人口に対し0.4%のところ、65~69歳は2.9%、70~74歳は5.8%と、年齢とともに上昇を続け、後期高齢者となる75歳超では、12.7%(75~79歳)と、10人に1人以上にまで増加する。さらに80~84歳では26.4%と4人に1人、85歳以上では59.8%と、5人に3人の割合となる。
厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査の概況』によると、要介護となる理由の1位は「認知症」で24.3%。続いて「脳血管疾患(脳卒中)」19.2%、「骨折・転倒」が12.0%となっている。ただし要介護4、要介護5のトップは「脳血管疾患(脳卒中)」で、それぞれ23.6%、24.7%となっている。
介護の問題は、介護される本人の問題だけにとどまらない。「誰が介護をするのか」が大きな問題となって迫ってくる。
介護人は「同居する家族」が54.4%で最多だ。内訳だが、「同居する配偶者」が全体の23.8%、「同居する子」が全体の20.7%と続く。
介護者を性別で見ると、女性が65.0%、男性が35.0%と、圧倒的に女性に多い。夫婦の場合、女性のほうが長寿で、要介護の夫を介護するケースが多いこと、また、要介護となった親も、娘に同居と介護を頼みたがるケースが多いのが理由か。
年齢別にみた同居の介護者と要介護者の組合せだが、「70~79歳」の要介護者では「70~79歳」の家族が介護している割合が56.0%と過半数になっている。また「80~89歳」の要介護者では「50 ~59歳」の家族が介護している割合が31.6%と最も多い。その次は「80歳以上」が25.1%。
この数字から、高齢者と高齢者の組み合わせが多いことが見えてくる。
高齢者施設への入居を切望しても、順番が…
以前は大家族が多かった日本も、経済成長に伴って核家族化が進展した。そしていま、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」、認知症を発症している高齢者が認知症の高齢者を介護する「認認介護」が急速に増加している。
家族に負担をかけたくないとなれば、介護施設への入居がひとつの選択肢となる。だが、介護施設も種類が多く、公的介護保険の施設サービスなら「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」「介護老人保健施設」「 介護療養型医療施設」「介護医療院」の4つがあり、要介護認定された人は、施設サービス費用を原則1割負担する。また、サービス付き高齢者向け住宅など、公的介護保険の施設サービス対象外の施設もあるが、一般的には民営施設のほうが費用負担は大きい。
総務省の調査「高齢者施設入所者の家計の把握」によると、介護施設からの月々の請求額は平均12万円程度、その他の個人的な出費が月々2万円程度だった。この調査は調査票の回収数が少なかったことに留意する必要はあるものの、介護施設への入居については、入居一時金を除き、月14万円程度が目安となると考えられる。
厚生労働省によれば、厚生年金受給者の年金受給額は月14万円程度、65歳以上男性に限ると月17万円。生労働省の試算では、一般的な夫婦の年金は月22万円程度とされている。年金からの天引き額を考えると、民間施設への入居であれば「年金プラスα」が必要だ。貯蓄が少ない場合は、公的施設が選択肢となる。
だが、問題は費用ばかりではないようだ。介護サービスが必要でありながら受けられない「介護難民」が増えている。特にコストの安い特別養護老人ホームは入居待ちの要介護者が数万人単位ともいわれ、75歳以上の高齢者が急増する今後は、入居待ちがさらに増えると考えられる。
そのような状況でありながら、介護業界の賃金は伸び悩んでおり、負担の大きさと給与が見合っていないといえる。国も対策に乗り出しているが、急増する高齢者に圧倒され、対応が追い付かないというのが実情だろう。
費用に糸目をつけないという富裕層ならまだしも、大多数人たちは払える費用に限界がある。介護が必要となり、高齢者施設への入居を切望しても、順番が回ってくるのははるか先。介護する側もされる側も、八方ふさがりで万事休す――。
そんな厳しい現実が、まさにこれから訪れようとしている。
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