現役世代への資産移動が狙い…「年110万円」の基礎控除
もともと基礎控除は課税の便宜のために設けられたとされていますが、経済の活性化をにらんで徐々に引き上げられてきたという歴史があります。現在の110万円になったのは2001年度からで、それまでは60万円でした。
この基礎控除を節税に利用したのが、「暦年贈与」という資産移動の手法です。1年間に受けた贈与額が110万円以下ならば贈与税がゼロであるのは、前述の通りです。加えて、課税方式は暦年単位で行いますので、翌年になると贈与額はリセットされて、また110万円までの贈与が非課税で受けられます。
「毎年110万円」の贈与を「10年」続けてみると…?
そこで、親が子どもに対して年間110万円ずつの現金を10年間贈与したと仮定しましょう。毎年の贈与額は基礎控除の範囲内ですから、贈与税はゼロのままです。その一方で、資産は1100万円減ったことになります。資産が減ったので、相続が発生した(亡くなった)ときにかかる相続税も減ることになり、節税になるという仕組みです。
しかも、年間110万円という基礎控除の枠は、財産を受け取る人が1年間にもらう総額を差しています。財産を贈る側に制限はありません。子ども2人に20年間贈与すれば4400万円減ります。資産家にとってみれば、これを使わない手はないという節税策といってよいでしょう。
贈与する相手は子どもだけでなく、配偶者でも孫でも構いません。親族でなくてもオーケーです。贈与する相手が多ければ多いほど、期間が長ければ長いほど、それだけ節税効果が高くなるのはおわかりでしょう。さらに相続と違って、贈与は毎年自由なタイミングでできるのも使い勝手がいいといえます。
逆に、もらう側の立場からすると、2人以上から贈与を受けている人は要注意です。父親から80万円をもらい、祖母から100万円をもらうと、合計で180万円になって課税の対象となってしまいます。この場合、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告をしなければなりません。180万円から基礎控除の110万円を引いた70万円が贈与税の課税対象となり、7万円を支払うことになります。
比べてみると一目瞭然!暦年贈与の節税額
では、暦年贈与によって、どれだけ節税できるのでしょうか。贈与税による節税額は、「非課税で贈与した金額(=相続財産から減らせた金額)」に「相続税の税率」をかけることで算出できます。もし贈与しなければ、それだけの相続税を払わなければならなかったわけです。
このうち、相続税の税率は、前述のように資産規模と相続人数によって変わってきます。具体的な節税額がどれだけになるのかを見ていきましょう。
それぞれ「10年間・110万円」の暦年贈与を受けた子ども2人…相続税の節税額は?
二次相続で、子ども2人がそれぞれ110万円の暦年贈与を10年間受けた場合、非課税贈与額の合計は次のように2200万円になります。
では、これによってどれだけ相続税が節税できるのでしょうか。資産(課税評価額)が1億円、2億円、3億円の場合に分けて計算したのが、[図表5~7]です。
暦年贈与を活用して2200万円を贈与したことで、これだけの節税になったわけです。子どもの数が多かったり、長い年月にわたって贈与をしていれば、節税効果はさらに大きくなります。
ちなみに、資産1億円というと、「うちはそんなに財産がないから関係ない」と思うかもしれませんが、東京都区内に自分の土地を持って住んでいる人のかなりの割合が、資産規模1億円に達すると考えられます。
天野隆
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士、宅地建物取引士、CFP
天野大輔
税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士
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