(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフストラテジスト・石山仁氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

好調な日本株式市場の背景

[図表1]TOPIX、TOPIX Small等の推移

 

日本株式市場は年初来高値を更新する力強い展開です。好調な日本株式市場の背景を整理しました。

 

(1)デフレから脱却する日本経済

■米欧経済はハードランディングは回避できるとの前提のもと、日本経済は堅調を維持するとの「期待」が「自信」につながり始めています。①利益率の上昇や*DX関連投資の増加から好調な設備投資、②春闘にみられるような賃上げ率の高まり、③過熱感すら出てきたインバウンド、などが背景です。

 

*DX:Digital Transformation。デジタル技術を駆使して、組織、企業文化などを改革し、競争力を向上させること。

 

(2)政策に対する「安心感」の拡大

■政治経済的には岸田政権の支持率の上昇と大型の財政出動があげられます。一方、金融政策では、植田新日銀総裁の金融緩和政策の持続という政策判断が安心感につながっています。今後イールドカーブ・コントロールの副作用対策として10年債金利の変動幅の±1.0%への拡大などは実施される見通しですが、大枠として緩和政策の修正には時間をかけていくと思われます。

 

(3)かつてないコーポレートガバナンスへの関心の高まり ~PBR1倍割れ企業に圧力

■1月から東証が進め始めた企業価値を高める動きを促す流れは、*SDGsが提唱する持続可能な世界を実現することを意識してコーポレートガバナンスを作成することが、企業価値の向上に必要だという認識へと向かい始めています。こうした流れにも呼応して、モノ言う株主(アクティビスト)の動きが活発化しています。海外バリュー系の大手投資家も注目するなど、2023年は日本企業の価値向上が飛躍的に進む可能性を秘めた「革命」期に近い環境にあると思われます。特にPBR1倍割れ企業の今後の対応については、東証・金融庁、内外機関投資家、内外アクティビスト、積立投資を含む個人投資家といった四方から注目されており、企業にとっても大変重要な1年となりそうです。

 

*SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。企業は創造的なリーダーシップを発揮することで持続を可能とする世界的な枠組み作りに、責任をもって参加することが期待されています。ビジネスモデルを時代の変化に即して変革していくことが企業価値を向上させるカギとなっています。

小型株市場を活性化するアクティビスト

■株式市場が堅調に推移する要因の1つとして、アクティビストの動向が注目されます。アクティビストは一般的にPBRの低い、時価総額規模が百億円程度の中小型株等に注目し、企業に対して様々な提案を行います。Google Trendsによれば、2022年後半以降、アクティビストへの関心が急激に高まっています。

 

[図表2]アクティビストの検索総数の相対値

 

■アクティビストが株主となっている企業をTOPIX Smallから選択し、昨年末から5月上旬までのPBRと株価の変化を調べてみました。図表3を見ると、PBRは上昇する傾向が確認されます。PBRが1倍台となるには時間がかかりますので、まずは改善している点は評価できると思います。株価の上昇率も基準となるTOPIX Smallが9.7%ですので、これを大きく上回っている銘柄が多くみられます。アクティビストが小型株市場の活性化に一役買っていると思われます。また、TOPIXSmall全体はPBR1倍割れが69銘柄減少し、2倍以上が15銘柄増加するなどの変化がみられました。

 

[図表3]主なアクティビストと保有銘柄のPBR、株価変化率(TOPIX Small)

 

■今後、株主総会シーズンを迎えます。アクティビストの活発な活動が企業価値の向上につながることを期待します。

 

(2023年5月11日)

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『年初来「高値」を更新中…日本株式市場が好調なワケ【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

石山 仁

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフストラテジスト

 

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