【ポイント1】良好な企業ファンダメンタルズ
■米国投資適格社債を見る上で重要なファンダメンタルズを企業財務と格上げの観点から確認しました。
<企業財務は健全>
■まず、企業財務の健全性を測る尺度の1つであるEBITDA有利子負債倍率を取り上げます。同倍率は企業の純有利子負債が収益力の何倍かを示した指標で、低いほど財務内容が良好と判断されます。
■2021年3月は2.3倍と、2000年以降で最も悪化しました。2020年以降のコロナ禍、2022年のウクライナ情勢と原材料価格の高騰など不透明要因が重なったことなどが背景でした。その後は企業が収益を着実に積み重ね、レバレッジを低下させたことで健全性が維持できていると判断されます。
■足元では銀行が貸出態度を厳格化させており、信用環境は引き締め気味ですが、好調な業績に支えられ、企業財務の悪化は回避できると考えられます。
<平均なみの格上げが継続>
■次に、格上げ比率(格上げ件数÷格下げ件数)を取り上げました。信用度が高まれば同比率は上昇します。2023年に入って3月は、シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したことなどを受けて、金融システム全体に波及するリスクが高まりました。さらに、景気・業績への懸念が強まったことで信用度が悪化し、同比率は1.1倍まで低下しました。その後、次第に落ち着きを取り戻し、足元では1.6倍とほぼ平均(1.8倍)なみの水準です。景気と業績が回復基調にあることから、今後も平均並みの格上げ比率が継続されると期待されます。
【ポイント2】高止まるヘッジコストもいずれ低下する可能性
■米国投資適格社債への投資は、ドル円レートの動きを抑えない(為替ヘッジなし)のか、抑える(為替ヘッジあり)のか、の判断も重要です。ヘッジにはコストがかかります(図表3の注2を参照)。ヘッジコストは利上げが加速する中で、大幅に上昇しました。3ヵ月ヘッジの場合、ヘッジコストは足元で5.7%まで上昇しており、米国投資適格社債のヘッジ後利回りは0.1%にとどまります。
■ヘッジコストの低下には、利下げが実施されることが重要です。利下げが実施され政策金利が低下すると、当該期間の銀行間の取引金利が低下することで、ヘッジコストも低下していることが確認できます。市場では2024年に複数回の利下げが予想されています。利下げが実施されればヘッジコストは低下すると思われます。
【今後の展開】安定した収益が期待される米国投資適格社債
■ヘッジなしは円安も取り込んで収益を最大化することが狙いです。一方、ヘッジありはコスト分だけ収益を低下させてもブレ(リスク)を抑えることが狙いです。過去の収益率を使って試算すると、米国投資適格社債でリスクに見合う収益を最大化する組み合わせは50%ずつでした。
■今後はヘッジコストも次第に低下すると思われます。中長期で投資を考える際は、一定割合、ヘッジありを組み合わせることで、リスクを抑えた運用が可能と考えられます。
■しかし、米国投資適格社債の利回り水準は大きく上方修正しており、安定した収益が期待できそうです。さらに、ドル円レートは米国経済の安定や米金利の高止まりから、しばらく円安局面が続く可能性があります。以上からヘッジを強く意識する必要はないかもしれません。
(2023年9月20日)
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【投資のヒント】米国投資適格社債に「安定した収益」が期待されるワケ(三井住友DSアセットマネジメント・チーフストラテジストが解説)』を参照)。
石山 仁
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフストラテジスト