今回は、相次いで開業する「ラグジュアリーホテル」の展望を見ていきます。※本連載は、インバウンド評論家、フリーエディターとして活躍する中村正人氏の著書、『ホテル業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、活性化するホテル業界の最新事情を紹介します。

「1泊5万円以上」にも関わらず開業が相次いでいる

いま東京都心で本格化しているのが、外資系を含む高級ホテルの新規開業だ。一般に富裕層が顧客とされるこれらのホテルの宿泊料金は、最低でも一泊5万円以上である。誰でも気軽に宿泊できる価格帯ではないが、東京五輪の開催が決定して以降、新たな開業ラッシュが始まっている。

 

2014年12月、個性派ラグジュアリーリゾートチェーンのアマンリゾーツによる「アマン東京」が大手町タワー(千代田区)に営業を開始した。国際的に評価の高い同グループが手がける初の都市型ホテルだけに、海外からも注目された。巨大な和紙で覆われたガーデンレセプションなど、日本の伝統素材が使われた館内の優雅な意匠の数々は、〝都会の中の隠れ家〞として特別感を演出している。

 

一泊あたりの宿泊料金は約9万円からと高額だが、同チェーンには「アマンジャンキー」と呼ばれる世界のファンの支持がある。

 

16年7月には、星野リゾートが「星のや東京」を同じく大手町に開業した。同館は都心のビル街に位置しながら、温泉付きの高級旅館というユニークな存在だ。玄関で靴を脱ぐという日本スタイルで、周辺の外資系ラグジュアリーホテルとの差別化を図る。

高級外資ホテルが「新しいサービス」の先導役となるか

一般に海外の富裕層は安心できる宿泊先として国際的に知られるホテルチェーンを選ぶ傾向があるという。どんなに日本国内で有名なホテルや高級旅館でも、宿泊先として選ばれるまでのハードルは高い。むしろ知名度の高い外資系ほど、東京五輪は商機といわれるのはそのためだ。

 

1990年代(パークハイアット東京、ウェスティン東京など)、2000年代(グランドハイアット東京、コンラッド東京、マンダリン・オリエンタル東京、ザ・リッツ・カールトン東京、ザ・ペニンシュラ東京など)と外資の進出が散発的に続いていたが、五輪を控えた10年代、再び開業が相次いでいるのだ。

 

これら高級外資ホテルは、ホテル物件を所有せず、運営に特化する経営スタイルや、都心の再開発の目玉である超高層複合ビルの上層階に入居していることに加え、客室数を極力絞り込んでいることが特徴だ。

 

前述のアマン東京や星のや東京はともに84室。客室数だけみれば一般のビジネスホテル並みで、今日急増する訪日外国客の客室不足の解消には必ずしもつながらない。

 

だが、こうした動きはいわば先祖返りとはいえないだろうか。前回の東京五輪(1964年)が開催された昭和のある時期まで、ホテルは日本の一般庶民が足を踏み入れることのない世界だった。

 

その後、ホテルで供されたサービスが大衆化され、日本の社会に普及していく。今日、アジア客の〝爆買い〞の対象となっている日本の衣食住に関わる消費財やサービスが生まれた原点は、昭和の時代の〝ラグジュアリー〞施設の代表だったホテルから生まれたといってもいいのである。

 

今日の高級外資ホテルも同様に未来を先取りするサービスの先導役を果たしてくれることを期待したい。

 

2014年6月、東京虎ノ門に開業したアンダーズ東京
2014年6月、東京虎ノ門に開業したアンダーズ東京

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