本連載は、インバウンド評論家、フリーエディターとして活躍する中村正人氏の著書、『ホテル業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、活性化するホテル業界の最新事情を紹介します。

きわめて「多様化」している外国人旅行者

近年、全国の観光地や都市部で多くの外国人旅行者の姿を見かける。いったい彼らはどこに泊まって旅の荷をほどき、休息をとっているのだろうか。

 

こうした素朴な疑問に明快に答えるのは意外に難しい。なぜなら、外国人旅行者はきわめて多様化しているからだ。

 

外国客全体の80%超を占めるアジア系から、すでにFIT(個人旅行)化している成熟市場の欧米系、数は少ないもののユニークな滞在を楽しむ富裕層や、訪日客のボリュームゾーンであるミドルクラス層、お金をなるべくかけずに長期旅行を楽しむバジェットトラベラー層に至るまで、国籍や階層で訪日外国客の宿泊実態は異なっているからだ。

大都市部を中心に「客室不足」が指摘される背景

観光庁の集計によると、2015年の国内のホテルや旅館への年間宿泊数は前年度比6.7%増の延べ5億545万泊で、過去最高を記録した。このため大都市を中心に客室不足が指摘される。

 

[図表]訪日外国人旅行者数の推移

 

背景には、訪日外国客の急増がある。2015年1974万人となった訪日外国人旅行者数は、16年も増加が見込まれている。特に1月から2月の中華圏の旧正月、3月〜4月の桜、7〜8月の夏休み、10〜11月の紅葉と、年間を通じてほとんど切れ目なく外国人旅行者が日本を訪れているからだ。

 

2つめの背景は、国際環境の変化にともなう国内旅行志向の高まりから、外国人だけでなく、日本人の国内宿泊が増加したこともある。

 

3つめの背景は、宿泊需要の急増に応じて近年、ホテルの増室や新規開業が進んでいるが、それでも客室数の供給が追いついていないことにある。

客室不足は「2020年まで続く」と予想

厚生労働省によると、国内のホテル旅館業の営業許可施設数は7万9519施設(2015年3月末現在)。そのうち、ホテルは9809、旅館は4万3363、ゲストハウスやカプセルホテルなどの簡易宿は2万5560という。

 

政府は20年までに訪日外国人4000万人の目標を掲げるが、それを実現するためには、外国客の集中する大都市圏から地方への分散化が欠かせない。売り手市場となったことからホテルの客室単価が上昇している。

 

海外の旅行会社からは「都心のホテルは予約がただでさえ入らないうえ、高くなった」という恨み言が聞かれる。客室を押さえられないため、ツアー催行を断念するケースも増えているという。こういう取りこぼしは残念な話である。

 

はたして急増する訪日外国客は、日本の宿に満足しているのだろうか? その問いに対する答えは、結局のところ、個別化した訪日客のニーズに即した施設やサービスをどれだけ提供できるかにある。

 

通念にとらわれない発想で既存の施設の活用も必要だろう。すべては彼らのニーズをどこまで細かく捕捉できるかにかかっているのだ。

 

本連載では、訪日外国客のさまざまな宿泊事情を概観しながら、外国客と経営側の双方の立場から、受入の核となる宿泊サービスの新しい可能性について考えてみたい。

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