今週の注目点…荒れやすい「日銀相場」に要注意
米景気に注目が集まるなかで、今週発表される主な米経済指標としては、27日の1~3月期GDP成長率(速報値)、そして28日のPCEコアデフレータなどがあります。
前者については、定評のあるGDP予測モデルのアトランタ連銀「GDPナウ」が、金融システム不安浮上後、それまでの前期比年率3%以上のプラス予想を、1%台へ大きく下方修正する局面もありましたが、最近では2%以上へ戻しました。一般的な予想コンセンサスもプラス2.1%となっており、前回のプラス2.6%から極端な落ち込みにはならないとの見方となっています。
そしてFRB(米連邦準備制度理事会)が注目するインフレ指標とされるPCEコアデフレータの上昇率は、前回の前年比4.6%から4.4%の小幅な低下にとどまるとの見方が今のところのコンセンサスのようです。
すでに、雇用統計やCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)など3月のデータでもFOMCの判断に大きく影響しそうなものは発表済みですが、今週のGDPなどの結果がよほどの「サプライズ」とならない限り、5月3日に予定されている次回FOMCでは0.25%の利上げ継続との見方が優勢な状況は変わらないでしょう。
そうであれば、今週の米景気指標の結果を受け、米金利や米ドル/円が、この間のレンジを大きく抜ける可能性は低いと考えます。
こうしたなか、今週もうひとつ注目を集めそうなのが、植田新総裁が初めて出席する28日予定の日銀金融政策決定会合でしょう。
日銀の金融政策会合では、2022年12月にYCC(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれる政策の10年債利回り上限を予想外に拡大した際、米ドル/円が約7円もの暴落となって以降、政策変更のなかったその後の2回の会合でも、当日の米ドル/円の最大値幅は3~4円程度に拡大するといった具合によく動いているため、今回も要注意ではあるでしょう(図表3参照)。
今回注目されているのは、植田総裁を筆頭に新執行部に交代したことを受けて、上述のように2022年12月の会合で拡大した10年債利回りの上限について、「再拡大ないし撤廃することがあるか」ということでしょう。
経済学の常識では、「中央銀行でも長期金利はコントロールできない」ということですから、そんな長期金利、10年債利回りに上限を設定している現在のYCCは、経済学者の植田総裁からするとできるだけ早く止めたいというのが本音ではないでしょうか。
ただし、気を付けなければならないのは、日本やドイツなど先進国の長期金利は、米国の長期金利の影響を強く受けるということです(図表4参照)。このため、YCC撤廃でも日本の金利急騰といった混乱がある程度限定的にとどまるかは、かなりの割合、米金利の状況についての見極めが必要になりそうです。
簡単な言い方をすると、米金利が低下傾向にあるなかでは、日本の金利上昇にも自ずと限度がありそうですが、米金利の上昇リスクが残っているなかでは、それに引っ張られて日本の金利上昇が加速する危険があるということです。
そういった観点からすると、3月の金融システム不安浮上以降、米金利が急低下したことは、日本の10年債利回りの上限を撤廃し、YCCを止めるひとつのチャンスの可能性があったでしょう。
ただその後、5月FOMCでの利上げ継続が有力視されるようになり、米金利低下もひと息つくところとなりました。28日の日銀会合では、翌週に控えたFOMCをにらみながら米金利の動向の見極めが大きな鍵になりそうですが、どちらかと言うと慎重に、拙速な政策の見直しを避ける可能性が高いのではないでしょうか。
以上を踏まえると、とくに28日の日銀会合前後で米ドル/円の値動きは荒くなる可能性がありますが、YCC見直しなどなかった場合は、133~135円中心の先週のレンジから新たな方向性が出るのは難しいと考えています。今週の米ドル/円の想定レンジは132~136円です。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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