事例2:M&Aで成長を加速させるコングロマリット経営のB社
B社は、燃料給油所、LPガス事業、車検事業、さらにはスイミングスクール、飲食事業、フィットネスクラブ事業など積極的にM&Aを活用しグループを拡大している。現在、親会社の純粋持株会社を中心に、子・孫会社併せて10社で構成され、12事業を展開する年商1,000億円のグループ企業である。
企業成長の原動力となっているのがM&Aの積極的な活用で、特筆すべきは、グループ入りした企業の業績をさらに伸ばしているところにあり、事業の成長戦略をオーガニックグロースとインオーガニックグロースの両輪で推進している点にある。
グループの経営スタイルとしては、基本的に各事業会社に判断を任せるスピード経営をモットーとしている。より的確な意思決定を行える「任せる経営」を重視することで、多くの経営者候補を生み出すことに取り組んでいる。しかしながら、グループが今後さらに成長するにつれて、トップがすべてを掌握することが困難となってきた。
そこで、これまでの成長スピードを維持しつつ、トップがこれまでグループ経営で発揮してきた「経営をおさえる勘所」を見える化し、グループのガバナンスとマネジメント体制を仕組みとして組織的に共有することで、よりグループとして成長し続けることが可能になると判断し、グループ全体のガバナンスとマネジメントの見える化と強化に取り組んだ。
また、さらなる成長と次世代へのノウハウ共有を目的に、グループにおける「経営ハンドブック」を作成し、ガバナンスやマネジメントの基本をルール化・明文化した。このハンドブックは、グループ各社の基本的な指針をルールブックとしてまとめたもので、今後新たにグループに参画した企業にも共有することにより浸透スピードを上げ、インナーブランディングを促進する狙いもある。
B社の取り組みについてまず実施したことは、特に、ホールディングカンパニー、事業会社、事業会社にある社内カンパニーの定義や役割などの確認と調査分析だ。ガバナンスやマネジメントに関する項目として、下記の項目について現状把握を行った。
(1)グループ方針・予算策定の展開の仕方
(2)M&Aや新規事業開発における業務フロー
(3)新規出店などの投資に関する業務フロー
(4)業績・資金管理(ホールディングカンパニーと事業会社)
(5)人事制度・人材育成体系・業務分掌
(6)グループ組織戦略やグループDX戦略
(7)決裁権限と意思決定における運用状況、グループ会議体系
(8)監査制度、リスクマネジメント
一番のポイントは、ホールディングカンパニー・事業会社・社内カンパニーにどこまでの権限を委譲するかを決めることである。ホールディングカンパニーと事業会社のどちらに権限を持たせるかは「求心力」と「遠心力」に例えられる。事業会社に任せるとはいえ、遠心力が強すぎてはグループが崩壊してしまうリスクが高まる。そのため、グループ全体の意思決定機関の位置づけとルール通りに運用されているかをチェックする監査制度の拡充が必要である。
B社ではグループ全体に関わる案件の最終意思決定機関を設置し、グループの事業戦略や組織戦略、未来投資や監査報告などの議案を集中的に週1回のタイミングで意思決定するようにデザインしており、ここでの意思決定は各会議体を通じて伝達される仕組みを構築した。そして、求心力を増す仕組みとしてグループ全体の監査体制強化も図った。これまでの対症療法的監査体制から予防的監査体制へのシフトをコンセプトとし、監査の基本プロセスを見直すとともに、これまで自社で作成していたリスクマネジメントの項目を体系立てて整理した「リスクカタログ」を元にチェックリストを作成。「リスクカタログ」を活用したリスク顕在化予防策のPDCAサイクルを回し、現場への周知徹底を図る仕組みを構築した。
企業が成長するには「経営の仕組み化」が必須
企業が次の成長を考える上で、経営における仕組み化は必須となる。その仕組みがないままに成長するのは、膨張にしかならない。ぜひ、今の自社およびグループの現状をご確認いただき、自社に今どのような仕組みが必要かを検討していただきたい。
福元 章士
株式会社タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
上席執行役員
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