「ホールディング・グループ経営体制」を目指す目的
ホールディング・グループ経営体制を構築する企業の特色としては、大きく二つに分類される。一つは、成長意欲の高い企業グループで、成長戦略の一環として新たに事業創出するM&Aを積極的に実施する企業である。そしてもう一つは、事業承継を検討する企業の中でも、特に「次世代の経営体制をどのように構築するか」を考え、経営と資本の分離やカリスマ経営者から次世代経営体制構築を目指す企業である。
ホールディング・グループ経営体制構築の際に企業が必ず直面する課題は、構築したホールディング・グループ経営体制をいかに運用していくか、という点である。実際にどのように企業の仕組みを構築しているのか、事例をお示ししたい。
事例1:次世代の組織経営体制シフトを推進する住宅メーカーA社
A社は、グループ年商150億円の住宅メーカーである。事業としては、本業である戸建住宅、注文住宅を手掛けており、住宅事業としては関連会社4社を有している。近年では事業の多角化を図っており、ホテル事業関連会社3社、介護施設運営事業会社1社、アグリ事業関連会社1社を有する企業グループである。
現在、A社における意思決定は社長を中心としたトップダウン型の構造であり、次世代への事業承継を見据えてグループ全体の意思決定構造を見直す必要があった。そのためには、グループ各事業における経営を今後は次世代経営者が担っていかなければならないとの強い思いを社長自身も持っており、「仕組みで経営できる体制」をいち早く構築しなければならないと、グループ経営へのシフトを決断した。特に、事業領域の異なる複数の事業会社を有していることから、グループガバナンス機能とグループマネジメント機能の設計を優先的に取り組んだ。
まずグループ全体において、次世代へ事業承継を実現するための長期ロードマップを作成。このロードマップに従い、自社グループに必要なグループ経営のルールをいつまでに構築しなければならないかを決定した。
次に、ガバナンス体制では権限と責任、および意思決定プロセスから見直し、これまでの決裁権限をブラッシュアップし、役員や部門長への権限をより大きくした。当然、現場との乖離を防ぐため部門長以上とのすり合わせも並行して実施し、現場の意見も確認しながら決定した。それに伴い社内会議体の見直しを実施。これまで多くの会議に出席していた社長の参加を敢えて絞り、原則として最低限の参加とした。会議の運営責任者に大きな責任を持たせるとともに、社内での議論や調整する場を敢えて創ることで、実践型の社長人材育成の一環とした。とはいえ、「手は放しても目は離すな」であるので、意思決定プロセスの報告はすべて集約され、社長に共有される仕組みとなっている。これまで明文化されていなかった事項に対して、基準を明確にしていくことで、グループ経営に対する理解を促し、インナーブランディングの一環としても社内で高い評価を受けている。
また、ガバナンス機能としてこれまで実施できていなかったのが、事業会社に対する監査体制である。当然、権限移譲を進める上でルール通り意思決定がなされているか、不正がないかをチェックする機能を構築する必要がある。それを踏まえた内部監査業務マニュアルやチェックリストの作成、監査実施スケジュールの整備を中心に、仕組みとして再構築した。