ホールディング経営が増加している背景
企業経営者にとって「後継者を誰にすべきか?」を考えることは非常に大きなテーマである。加えて、現在の日本では後継者が不足しているという現実がある。経済産業省の推計によれば、2025年には120万社以上が後継者不在の状態になるのだという。事業承継期を迎える多くの企業が、今後どのように事業を承継し、持続的成長を実現していくかという点で課題を有していると言える。
このような環境下において、ホールディング経営へのシフトが選択される理由は以下の5つだと考えられる。
1.世代交代による価値観の多様化
2.親族間承継から社員や第三者承継へ多様化する後継者選び
3.ビジネスモデル陳腐化による事業ポートフォリオ改革の必要性
4.組織を更に成長させるための経営者人材の育成と権限移譲システムの必要性
5.法改正による組織再編のコスト負担軽減
では、この5つの理由について詳細を述べていく。
1.世代交代による価値観の多様化
現在の事業承継は、主に団塊の世代から団塊ジュニア世代への承継が多い。ここで注目すべきは、経営に対する価値観も変化しているということである。団塊世代は、日本経済の「成長期」から登場したが、団塊ジュニア世代は「成熟期」しか知らない。成熟期におけるキーワードは「多様性」である。
団塊ジュニア世代の有する価値観は、ビジネスモデルや組織文化、そして働き方まで、多様性をいかに許容し、長所連結主義で成長実現を目指すのかという価値観である。これまでのように1つのビジネスモデルに固執すればやがて陳腐化していき、かつトップダウンの組織では、社員のモチベーションを保てなくなり、成長は難しい。
ホールディング経営を求める理由の1つは、やはり画一的な経営スタイルから、より多様性を実現しやすい経営スタイルを目指すという経営者の価値観の変化が大きく影響しているといえる。
2.親族間承継から社員や第三者承継へ多様化する後継者選び
現在の事業承継の特色として、今までの親子間や親族間で承継するケースから、役員の内部昇格や外部招聘が増加傾向にある。必ずしも親族間承継を優先するのではなく、純粋に企業の長期的な成長発展のためにどうすべきか、過去の慣習や前例にとらわれることなく考える経営者が増えている。
親族内に後継者がいない場合は「社員承継」、社員にも後継者が見つからない場合は「第三者承継」、つまり外部から有能な経営者人材をスカウトする、あるいはM&Aで会社そのものを売却するなどの選択肢がある。近年、経営者人材のヘッドハンティングやM&Aが急増しているという事実は、まさに事業承継の多様化を象徴していると言ってよい。
後継者選びの多様性に対応する観点から見れば、ホールディング経営は所有と経営を分離する手段であり、このニーズに対応できる経営スタイルであると言える。
3.ビジネスモデル陳腐化による事業ポートフォリオ改革の必要性
多くの企業が複数の事業やグループ企業を有している。企業はこれまでの成長過程において、既存のビジネスモデルを時代や顧客ニーズの変化に対応させることで新たな事業の柱を構築し、事業会社として立ち上げ成長させてきた。
現在、事業のライフサイクルはより短くなっていることから、いかに事業を組み合わせてシナジー効果を創出し、付加価値を高めていくかを考え、これまで以上にスピードを上げて実施していなかければならなくなった。
企業存続の必要性から、この事業の組み換えをいかに戦略的に実施するかといった「事業ポートフォリオ戦略」を描き実行することが必須で、それに対応したグループの戦略を実行する組織デザインが求められると言える。
近年、ホールディング経営体制が求められるのは、まさに事業継続に必要な事業ポートフォリオ戦略を実践するために不可欠な経営体制として認識されているからなのである。
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