各国の通貨を取引する「外国為替市場」…FX市場とも
外国為替市場(foreign exchange market)は日本円やアメリカドルなどの各国の通貨を取引する市場である。略してFX市場と呼ばれることもあるが、金融派生商品を使って通貨を取引する市場に限ってFXという用語を使うこともある。
株式や債券の取引は証券取引所で行われている。近年は証券会社などが設置する私設取引所(PTS)のシェアが高まっているものの、多くの証券は取引所という限られた空間(現在はインターネット取引が主流であるためサイバー空間)で売買されている。
それに対して、外国為替の取引は参加者の幅が広く、取引されている場所も多い。私たちが旅行のために銀行の窓口で両替※1するのも外国為替の取引といえる。
※1 異なる通貨同士を交換することをexchange、お釣りをもらうことをchangeというが、日常用語ではどちらを使っても構わない。
外国為替市場という言葉からは取引所をイメージするが、実際には実社会からサイバー空間にまで広がったネットワーク全体を指す。しかし、本記事の読者は図表1のようなイメージを持てばいいだろう。
図表1のような取引所が国内にも存在する。取引所では、現在の為替レートが提示されており、売買希望者を募っている。銀行などの参加者は直接取引をせず、ディーラーが仲介する。ドルを必要とする顧客はディーラーに買い注文を出す。一方で、手持ちのドルを売りたい顧客はディーラーに売り注文を出す。両者の価格と金額が一致すれば、取引が成立する。
外国為替も株式と同じように24時間取引されている。日本が夜になってもヨーロッパの市場で円は取引されており、その後はアメリカやオーストラリアなどで取引されて日本に戻ってくる。
最も取引の多い通貨は「アメリカドル」
外国為替市場では、様々な種類の通貨が取引されているが、最も取引の多い(これを厚みがあるという)通貨はアメリカドル(以下、単にドルと表記する)であり、ドルをペアとしない通貨間の交換はより困難となる。
例えば、ケニアシリングからタイバーツに交換するためには、同額をタイバーツからケニアシリングに交換したいという相手を見つけなければならない。そこで、ケニアシリングをドルに交換し、次にドルをタイバーツと交換する。ケニアシリングからドルに交換する方がタイバーツよりも相手をはるかに見つけやすい。
ドルはこの取引では為替媒介通貨(vehicle currency)としての役割を果たしている。現時点では、ドルが為替媒介通貨としてもっともすぐれているため、ドルとの交換比率を為替レート(exchange rate)、ドルをペアとしない通貨の交換比率をクロスレート(cross rate)という。
同様に、ドルとの取引を為替取引、ドルをペアとしない通貨の交換をクロス取引というが、ここでは区別せずに為替レート、為替取引と呼ぶことにする。クロス取引は2回の取引を行うため、手数料が高くなる傾向にある。この傾向は個人が旅行などの際に現金を両替する際の手数料でも見られる。
JPY、USD…初めの2文字が国名、3文字目が通貨名
通貨名は3文字のISOコードで示される。先ほどの例に出てきたケニアシリングはKES、タイバーツはTHBというように、通常は初めの2文字が国名、3文字目が通貨名を示している。近年はビットコインなどの暗号通貨も2―4文字のコードで表示される。
通貨名は地域や国の歴史などから決められているものも多いため、近隣諸国で似たような名前の通貨が流通していることもある。
例えば、北欧ではクローナ(スウェーデン:SEK、アイスランド:ISK)やクローネ(デンマーク:DKK、ノルウェー:NOK)、中南米ではペソ(メキシコ:MXN、アルゼンチン:ARS、チリ:CLPなど)、中東ではディナール(イラク:IQD、クウェート:KWD、バーレーン:BHDなど)やリアル(イラン:IRR、カタール:QAR)などがある。また、シンガポールドル(SGD)などドルが付いた通貨名も多い。
アメリカドルを自国通貨として利用する場合も
通常は、1カ国で1通貨だが、複数の国で同一通貨を使っている地域もある。ユーロ、CFAフラン(XOF)、CFPフラン(XPF)、東カリブドル(XCD)などは複数の国で法定通貨として流通している。
一方で、ジンバブウェではジンバブウェドルが2009年に廃止され、アメリカドル、南アフリカランド、イギリスポンド、中国元などが使われている。アメリカドルはエルサルバドル、パラオ、ミクロネシア連邦などでも使われている。
このようにアメリカドルを自国通貨として利用することをドル化(dollarization)という。また、ユーロはモンテネグロなどでも使われており、こちらはユーロ化(euroization)と呼ばれている。その他にはリヒテンシュタインがスイスフランを使う例もある。経済危機などにより自国通貨が維持できなくなった、国の経済規模が小さすぎるために自国通貨を維持するのは妥当ではないなどの背景がある。
為替ペア、ドルをペアとした取引が圧倒的に多い
図表4はBIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)による為替ペアの取引ランキングであるが、ドルをペアとした取引が圧倒的に多い。左側で見ると、ドルは40%以上のシェアであり、ユーロや円の2倍以上の取引がある。
また、右側の通貨ペアで見ても上位10ペアはすべてドルが介在している。USD/EURはドルとユーロの取引を表しているが、24.0%という数値はドルの項目にもユーロの項目にも足されることになり、同じ数値が2回計算されることになる。
BISでは為替ランキングではシェアの合計が200%になるように報告されているが、ここでは2で割ってシェアの合計が100%になるように調整している。
SDR(Special Drawing Rights)
SDRは特別引出権といい、IMF(International Monetary Fund:国際通貨基金)が創設した資産であり、IMFが加盟国に配分している。SDRの価値は、
1SDR=41.73%×USD+30.93%×EUR+10.92%×RMB+8.33%×JPY+8.09%×GBP
で算出される。計算式は2021年9月に見直される。SDRは通貨ではないが、国際的な計算単位として機能している。例えば、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)のルールでは、中央政府が10万SDR以上の物品を購入する際には国内の業者だけでなく外国の業者も入札に参加させなければならない。
SDRのように複数の通貨を使って価値の計算をすることをバスケット方式といい、バスケット方式で価値を決める通貨をバスケット通貨(basket currency)という。ユーロは旧ドイツマルクやフランスフランなどから算出されたバスケット通貨である。
為替レートは常に変動するために、ドルやユーロなどの特定の通貨を計算に使うと日本円などに換算した時に変動が大きくなる。バスケット通貨では、ドルが高くなった時にユーロが安くなるなどバスケットの中身がそれぞれ別方向に変動して互いに相殺し合うために、価値が安定しやすい。
川野祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授