3人に1人が「年収300万円以下」だが…「やらなきゃ損!」日本の〈投資・副業推し〉にキャリアコンサルの“冷静ツッコミ”

3人に1人が「年収300万円以下」だが…「やらなきゃ損!」日本の〈投資・副業推し〉にキャリアコンサルの“冷静ツッコミ”
(※写真はイメージです/PIXTA)

正社員であっても、3人に1人が年収300万円以下*という現在(*国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」より)。不足分のお金は自助努力で補うよう促される今、投資や副業で年収アップを考える人も多いでしょう。しかし、キャリアコンサルタントの森田昇氏は、まず「転職」すべきとアドバイスします。その理由を、森田氏の著書『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

副業や投資よりも「まず転職」

なにも副業や投資自体を否定しているわけではありません。むしろサラリーマンなら積極的にするべきだと思っています。転職だけでは大金持ちにはなれません。会社に雇用されている限り年収の上限は決まっています。だから副業や投資で大金持ちになりましょう。そうそう起業もいいよね、なのですが。

 

そのためには正しい順番を知る必要があります。最初に転職、次に副業からの起業、最後に投資です。副業と投資を始めるにも、まず転職から始めるのがセオリーです。年収300万円のままで副業や投資を開始するのは、どちらも実にタイパとコスパが悪いのです。

「副業」には時間と労力がかかる

副業については、厚生労働省の「モデル就業規則」にも記載されて大企業のサラリーマンでも可能となったことから、始める人が増えています。「やらなきゃ損! 今すぐ副業を!」くらいの勢いですが、誰でも簡単に稼げるようになるわけではありません。

 

当たり前ですよね、本業でやっている人たちとの競争になるのですから。「誰でも簡単に稼げる副業」を謳っているものの中には詐欺案件か高額情報商材の売り込み案件も多く、まったく稼げないどころかマイナスになるので騙されないように。

 

副業の大事な視点は、「時給で考えてはいけない」ということです。時給で稼ぐのは単なる時間の切り売りですので、本業で残業したほうがマシです。せっかく大事な時間を費やすのだから、アンケートモニターやポイントサイトといったお小遣い稼ぎで疲弊するのはやめて、本業にも活かせるスキルや人脈、やりがいを手に入れましょう。

 

それと、「コストをかけない」ことも大事です。仕入れが発生するようなせどりや転売、はたまたネットワークビジネスは売れなきゃ損するだけです。

 

理想的な副業は、お金をかけず、在庫も持たずに、小さく始められ、ゆくゆくは本業以上の収入までコンテンツを育てられるスモールビジネスですが、育つまで時間がかかります。ブログアフィリエイトや動画編集、Webライター等、どれも月5万円の収入を定期的に得られるようになるまでには何百時間とかかります。

 

そんな時間を仕事以外の睡眠時間等を削って捻出するくらいなら、残業がなく疲れも溜まらないホワイト企業に転職して、時間と気力を確保できる環境整備から着手するべきです。副業に取り掛かれる時間と気力を生み出すためには、まず転職なのです。

 

というか、転職することで年収100万円上げれば月5万円の副業以上の収入を得られますから、無理に副業することはないですよねぇ。

「投資」には時間とコストがかかる

投資については、国による政策で「つみたてNISA」の拡充も発表される等、リスクの少ない商品が登場したことで、始める人が年々増加しています。これまた「やらなきゃ損! 今すぐ投資を!」くらいの勢いですが、誰でも簡単に勝てるわけではありません。

 

当たり前ですよね、投資は最終的に資金力のある人間が勝つものですから。「誰でも簡単に稼げる高利率商品」を謳っているものは詐欺案件でしかありません、有名なポンジ・スキームです。投資額すべて持っていかれますから騙されないように。

 

理想的な投資は、「ドルコスト平均法でインデックスファンドへの積立投資」だと思います。詳しい説明は省きますが、『年収300万円FIRE 貯金ゼロから7年でセミリタイアする「お金の増やし方」』(山口貴大著、KADOKAWA)によると毎月5万円を利回り5%が可能なインデックスファンドで運用していけば、複利の力で30年後には4,000万円以上となる計算です。

 

ギャンブル的な欲に目がくらんだ投機さえしなければ、日々の生活を助けてくれる資金を投資で創り出すのは決して不可能ではありません。

 

投資は統計的にも正しいのでおススメなのですが、いかんせん時間とコストがかかります。年収300万円の人であれば、月の給料はボーナスを除くと平均20万円前後。税金保険料等が天引きされると17、8万円ほどですが、その中から5万円も30年間積み立て続けられますか?と言われると相当の覚悟が必要ですよね。現実的ではないと思います。

 

食費等を無理矢理削って生活がカツカツになるくらいなら、無理せず稼げる業界に転職して、元手を確保できるよう年収アップから着手するべきです。投資にかけられる時間とコストを生み出すためには、まず転職なのです。

 

というか、転職することで年収100万円上げれば月5万円の投資資金は余裕で作れますから、無理に今の生活費を削らなくても投資は可能ですよねぇ。

「起業」には〈時間・労力・コスト〉のすべてがかかる

起業については、起業支援や身分保障の拡充といった個人事業主でも安心して働ける環境整備が進んだことで、フリーランスになる人が年々増加しています。「やらなきゃ損! 今すぐフリーに!」くらいの勢いですが(しつこくてすみません笑)、誰でも簡単に生き残れるわけではありません。

 

当たり前ですよね、あくまで仮説ですが創業者の3割は1年で、5割は3年以内に廃業する。10年後まで生き残っている創業者は1割程度と言われる厳しい世界ですから。前準備もなく「いきなり会社を辞めて独立」は絶対にやめてください。私が全力で止めます。

 

サラリーマンは最高です。毎月確実に給料が振り込まれますし、社会保険や厚生年金の半額を会社が負担してくれます。税金関係の作業もしなくて良く、住宅ローンやクレジットカードの審査も通りやすい。社会的な信頼性が高いのがサラリーマンです。

 

起業することにより、これらを一度すべて失います。さらに、軌道に乗るまでの数年間は時間と労力とコストも奪われ続けます。恐ろしいですよね。

 

会社は辞めずに、安定した身分と収入を得ながら時間をかけてじっくり考え、副業からスモールビジネスを育てていずれ起業できるようになるのがおススメです。今の年収が300万円だからって決してリスキーな行動をしてはいけません。

 

というか、転職することでサラリーマンという社会的に認められた身分のまま収入を上げられますから、無理に起業することはないですよねぇ。

 

というように、「年収アップのために副業や投資、はたまた起業に時間と労力とコストをかけるくらいなら、最高にタイパとコスパが良い転職を最初に実行するべし」という結論になるのです。

 

 

森田 昇

10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士

 

何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した年収300万円のブラックIT企業四天王の一角(当時。その後倒産)を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職」で年収300万円からの脱出を果たす。

この転職法を紹介した再就職支援セミナーをハローワークで100回以上開催、2,000人の転職と再就職の支援をする。Twitterフォロワー数合計13,000人。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)がある。

 

※本連載は、森田昇氏の著書『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

年収300万円から脱出する「転職の技法」

年収300万円から脱出する「転職の技法」

森田 昇

日本能率協会マネジメントセンター

年収が少なくて悩んでいる方に朗報です。深刻な人手不足と世界的なインフレで、人材の需給バランスが歪んでいる今こそ、転職の最大のチャンスです。もし今の仕事が過酷なのに年収が300万円程度である場合、それは入る会社や業…

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