多くの人が転職を考えるも、大抵「面倒くさい」で終了
転職という年収アップの解決方法を今までまったく考えたことがない。そういった人はほとんどいないでしょう。コロナ禍では約8割の人が「転職を考えた」というデータも、株式会社TalentX(旧MyRefer)による「コロナ禍の転職意向調査」で示されています。ところが、実際に転職をした人は1割のみと、「多くの人が考えたものの実行しない」という結果でした。
もちろん転職するしないは自由ですし、年収アップだけではない人生を変える1つの手段でもあるので熟考していただきたいのですが、実はその大半が「面倒くさい」という身もふたもない理由なのです。
何もしないと収入は下がっていく
時間や労力をかける費用対効果を冷静に考えて「自分にはタイパやコスパが悪い」「このタイミングでの転職はリスクがある」「今の会社と仕事に十分満足している」と結論付けて転職しないのならまだしも、現状に不満や不安が大きいのに「面倒くさい」「変わるのがイヤだ」「我慢すればいい」といった現状維持思考の人は、厳しいことを言いますが年収を上げられません。「誰かがどうにかしてくれる」と他力本願で考えてばかりの人もまた、年収300万円*から脱出できません(*国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、正規・非正規社員にかかわらずサラリーマンの3人に1人は年収300万円以下)。
「求人自体が年収300万円しかないんだが」「地方の求人なんてそんなものだぞ」「ハローワークや転職サイトにそれしかないんだ」「国や求人を出している会社は何を考えているんだ」「どうにかしてくれ」そんな切実な声が聞こえてきそうなので、だからこそ転職です。
求人は溢れているのに年収が低いものばかりなのは、そういった地方や業界の求人なので見なくていいです。テレワークの進展で地方在住のままでも首都圏の求人に応募できる時代になっていますし、様々な業界の求人もありますから、首都圏や今まで経験のない業界の求人もチェックしましょう。今のあなたを取り巻く状況だけで何とかしようとするのではなく、世界を広げて積極的に変化していかないといけません。
世界が狭いまま、同じ業界のまま、現状維持だけを考えて何もしないでいると、状況は悪くなる一方です。評価もされず、若手に追い抜かれ、収入が下がっていきます。
「現状維持」では手取りは下がり、生活苦が加速
国に頼ろうとしても助けてくれません。助けないどころか、私たちを将来にわたって苦しめる存在となりつつあるのが今の日本です。
サラリーマンの平均年収はここ30年で472万円⇒443万円(2021年)と減少しています。『週刊少年ジャンプ』の定価は190円⇒290円(2022年)と、物価は上がり続けているにもかかわらず収入が下がっているのは周知の事実ですが、サラリーマンが給料から天引きされる各種税金や消費税、保険料負担は増加しています【図表】。
このように、実質賃金としての年収が減少する中、社会保険料や税負担の増加で手取りの給料も減っているというのは非常に深刻な問題です。進展する少子高齢化による医療費負担増や、団塊の世代が後期高齢者になることでの介護保険の負担増等、給料から天引きされる金額の割合は今後も増え続けます。年収をアップさせない限り、現状維持のままでは手取りの給料が減り続けて生活は苦しくなる一方です。
サラリーマンは最も社会的に保障されている身分ゆえに、国は私たちを苦しめてきます。老後に貰えるはずの公的年金もどんどん減っていくので、「人生100年時代」まで長くなった定年後に備えようとすると、お金のやりくりはキツくなり続けます。会社の定年は60歳、65歳と上がり続け、今後は70歳、80歳、定年廃止と、生涯にわたって働き続けないと生きていけなくなるのだから。
「今の会社がどうにかしてくれる」では失職のリスクも
「だったら社会保険料を折半で負担してくれて雇用保険も払ってくれる今の会社を頼ろう。年収がそんなに上がらないといっても、年齢を重ねれば多少は増えるだろうし、ずっと働き続けられるし」そう思っている人は危険です。茹でガエル状態です。
会社の平均寿命は、もはや私たちのサラリーマン人生より短くなっています。大卒から定年まで、今の定年制度なら約40年間働くことになりますが、会社の平均寿命は23.8年(2021年に倒産した企業の平均寿命。東京商工リサーチ調べ)しかありません。ここ10年で創業された企業は20万社ありますが、逆に倒産した企業は9万社もあります。創業100年を超える長寿命の会社は日本全国で2%しかありません(帝国データバンク調べ)。
ただでさえ長くない企業の寿命は、テクノロジーの進化が加速している現代では、莫大な利益を生んだビジネスモデルが数年後には赤字に転落しているケースも珍しくないため、加速的に短くなっています。「終身雇用を守っていくのは難しい」と2019年にトヨタ自動車の社長が発言したとおり、1つの企業に長く勤め上げ、そのまま定年を迎えて年金で余生を過ごすという昭和の人生設計は事実上崩壊しています。夢物語となりました。
サラリーマンなら誰もが1回は転職する「大転職時代」を、私たちは生き抜く必要があります。もし会社が倒産したら、無職で放り出されてしまいますから。
悲しいことに、健康で文化的な最低限度の生活に必要な収入や雇用の確保に、国や会社は責任を負うことができなくなりました。そして、「これらの穴埋めは国や会社に頼らずに自分自身で頑張れ、それが自助だ」という意味で副業や投資を今になって推奨しているのだから本当にタチが悪いのです。これ、もしかして事実発表罪で捕まりますかね?
森田 昇
10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士
何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した年収300万円のブラックIT企業四天王の一角(当時。その後倒産)を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職」で年収300万円からの脱出を果たす。
この転職法を紹介した再就職支援セミナーをハローワークで100回以上開催、2,000人の転職と再就職の支援をする。Twitterフォロワー数合計13,000人。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)がある。