(※写真はイメージです/PIXTA)

土地の所有権を手放すための「相続土地国庫帰属法」において、土地を国庫に帰属させることはつまり、土地の管理コストを国に転嫁し、最終的には国民がそのコストを負担することを意味しています。本稿では、荒井達也氏の著書、『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』から一部を抜粋し、「相続土地国庫帰属法」の必要性と規律が設けられた背景についてQ&A形式で解説します。

「相続土地国庫帰属法」新設の背景

Q:

相続土地国庫帰属制度の創設には、どのような経緯と背景があるのですか。

 

A:

社会経済情勢の変化を背景に所有者不明土地予備軍が増加する中、旧法下では、土地所有権を手放すための仕組みについて明文の規律がありませんでした。

 

そこで、相続による所有者不明土地の発生を抑制するために、モラルハザードの抑止や国の財政負担の増加防止も意識しながら、相続等により土地所有権を取得した者のために、土地所有権を手放すことができる制度が創設されました。

(※写真はイメージです/PIXTA)
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解説

民法239条2項は、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」と規定しています。もっとも、土地所有権の放棄をはじめ土地所有権を手放すための仕組みについては、旧法に規律がなく、その可否は判然としませんでした。

 

制度創設の経緯と背景にある考え方

(1)社会経済情勢の変化と所有者不明土地予備軍の増加

人口減少により土地の需要が縮小し、価値が下落する土地が増加する傾向にある現在の社会経済情勢においては、土地所有者の土地への関心が失われ、適切に管理されなくなる土地が今後益々増加することが予想されます。

 

このような土地は、所有者の相続が発生しても、遺産分割や相続登記がなされず、所有者が不明化するおそれが高いといえます。

 

(2)相続等により土地を取得した者の負担を軽減する必要性

土地に対する関心が低下した所有者は、一般には、その土地を売却したり賃貸したりすることになりますが、土地の需要が縮小しつつある中では、そのような土地活用ができない場合も少なくありません。

 

その中でも、相続(遺産分割や特定財産承継遺言を含みます。)により土地を取得した者は、当該土地からの受益がなくても、相続を契機として土地をやむを得ず所有していることが類型的にあり、このような者には、一定の範囲で、土地の管理の負担を免れる途を開くことが相当であると考えられます。

 

(3)国の負担増加を抑制する必要性

もっとも、土地を国庫に帰属させるということは、土地の所有に伴う義務・責任や管理コストを国に転嫁し、最終的には国民がその管理コストを負担することを意味します。

 

そのため、一定の範囲で国庫帰属を認めるとしても、この点に配慮する必要があります。

 

(4)モラルハザードを抑止する必要性

また、土地所有者は、民法上、相隣関係や不法行為の規定によって一定の義務や責任を負っており(民法216条、同709条等)、土地所有権を手放すことを無条件に認めると、所有者が、将来的に土地の所有権を手放すつもりで土地を適切に管理しなくなるモラルハザードを誘発するおそれがあります。

 

そのため、一定の範囲で国庫帰属を認めるとしても、この点を抑止する仕組みが必要です。

 

土地を手放すことができる制度の創設

このような背景を踏まえ、今回、所有者不明土地の発生を抑制するために、モラルハザードの抑止や国の財政負担の増加防止も意識しながら、相続等により土地所有権を取得した者のために土地所有権を法務大臣の行政処分により国庫に帰属させることができる制度(相続土地国庫帰属制度)が創設されました(相続土地国庫帰属法1条参照)。

(※写真はイメージです/PIXTA)
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なお、制度設計にあたっては、上記2において述べた要素が反映されており、これらが制度の解釈指針になるものと考えられます(下記図参照)。

【図】相続土地国庫帰属制度の背景にある考え方(著者作成)

 

 

Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響

Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響

荒井 達也

日本加除出版

「どうすれば、実務家が短時間で効率的に今回の改正の要点を理解し、実務対応を検討できるか」を至上命題とした、知識の習得だけでなく実務への応用に活かせる一冊。日弁連所有者不明土地問題等に関するワーキンググループの幹…

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