具体的相続分の期間制限に関して新設された規律
Q:
具体的相続分の期間制限に関して新たに設けられた規律は、どのようなものですか。
A:
改正法では、遺産分割を促進するために、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割について、原則として特別受益及び寄与分の規定が適用されないこととされました。なお、10年経過前に調停を申し立てた場合ややむを得ない事由がある場合の例外があります。
解説
旧法では、相続開始から長期間経過した場合でも、特別受益や寄与分の規定の適用が制限されることはありませんでした。
改正法の規律―特別受益と寄与分の期間制限
(1)原則―相続開始から10年経過後は特別受益・寄与分はなし
改正法では、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割に、原則として特別受益(民法903条及び904条)及び寄与分(民法904条の2)の規定が適用されないこととされました(改正後民法904条の3柱書)。
特別受益や寄与分の規定が適用されないとは、具体的相続分による分割を求める利益が失われるという実体法上の効果が生じることを意味しています。そのため、期間経過後に具体的相続分による分割を求める利益について不当利得返還請求等を認めることは想定されていません。
その結果、相続開始から10年の期間経過した後は、相続人は、各相続人の法定相続分(指定相続分がある場合にあっては、指定相続分)を前提に遺産分割を行うことになります。
(2)厳格な2つの例外
ア概要
もっとも、次の①又は②のいずれかに該当する場合は、相続開始から10年を経過した後であっても、特別受益及び寄与分の規定の適用を受けることができます(改正後民法904条の3柱書但書)。
①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
②相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
イ「やむを得ない事由」の意義
②における「やむを得ない事由」とは、客観的な事情からして、相続人において遺産分割の申立てをすることを期待することがおよそできない場合をいうと考えられ、基本的には容易に認められないものと考えられます。
例えば、遺産分割を禁止する合意があり、期間内に遺産分割が法的に実施できない場合等がこれに該当すると考えられます。もっとも、必ずしもこういった法律上の障害がある場合に限られるわけではありません。
例えば、被相続人の生死が不明な状態であり、被相続人が死亡したことをおよそ知ることができない状況にあった場合や相続開始から10年を経過する直前に遺産分割調停等の申立てが取り下げられた場合もこれに該当すると考えられます。
他方で、事案にもよりますが、単に病気療養中や海外勤務中といった事情があるだけでは、直ちに、やむを得ない事由は認められないと考えられます。
ウ「やむを得ない事由」の基準時
なお、「やむを得ない事由」は、相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に存在することが必要とされます(改正後民法904条の3第2号参照)。これは、時効の完成猶予制度(民法158条以下参照)を参考にしたもので、やむを得ない事由が消滅した時から6か月間の準備期間を確保する趣旨です。
【図】例外的規律のイメージ(著者作成)
(3)遡及適用
具体的相続分の期間制限(改正後民法第904条の3)は、施行日前に相続が開始した遺産の分割についても遡及適用されます。この場合、いつの時点から寄与分等の利益が失われるかが問題となりますが、経過措置では、①相続開始の時から10年を経過する時又は②施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時までとされています(改正法附則3条)。
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