相続土地国庫帰属制度の「ヒト」「モノ」「カネ」
Q:
国庫帰属の基本的な要件は、どのような内容ですか。
A:
相続土地国庫帰属制度の基本的な要件を大きく3つに分けると、申請者として認められるための「ヒト」の要件、国庫帰属が認められる土地に関する「モノ」の要件、納付が必要になる手数料等の「カネ」の要件があります。
解説
相続土地国庫帰属制度の要件に関しては、相続土地国庫帰属法から政省令に委任されているものがあり、制度の利用を検討する際は、これらを十分に精査することが必要です。
本書執筆時点では、これらの政省令が制定されていないことから、本パートでは相続土地国庫帰属制度の基本的な要件について解説します。
相続土地国庫帰属制度の基本的な要件
相続土地国庫帰属制度の基本的な要件を、私なりの言葉で整理すると、大きく「ヒト」「モノ」「カネ」の要件に分類・整理することができます。
まず、「ヒト」の要件として申請主体に係る要件があります。次に、「モノ」の要件として申請が可能な土地がブラックリスト方式で定められています。さらに、「カネ」の要件として、一定の手数料・負担金の納付が必要とされています。
(1)申請主体(ヒトの要件)―相続等で土地を取得した者
承認申請ができる者は、土地の所有権の全部又は一部を相続等により取得した者です(相続土地国庫帰属法2条1項括弧書)。
ここでいう「相続等」には、遺産分割、特定財産承継遺言及び遺贈が含まれますが(部会資料48・6頁参照)、遺贈については受遺者が相続人の場合に限ります(相続土地国庫帰属法1条括弧書)。
これは、相続により土地の所有者となった者は、その土地からの受益がなくても、相続を契機にやむを得ず土地を所有していることが類型的にあり得るため、その者に一定の限度で土地の管理の負担を免れる途を開くことが相当であると考えられたためです。
なお、共有地の場合、承認申請は共有者全員が共同して行う必要があります。この場合、承認申請者の中に相続等により共有持分を取得した共有者が存在する必要があります(相続土地国庫帰属法2条2項参照)。
(2)承認申請が可能な土地(モノの要件)―ブラックリスト方式
国庫帰属が認められる土地の要件については、(A)承認申請自体が認められない土地及び(B)承認申請は可能だが土地の状況次第では承認が認められない土地がいわゆるブラックリスト方式で定められています(相続土地国庫帰属法2条3項及び同法5条1項)。
概要は次のとおりです。
①建物の存する土地
②担保権又は用益権が設定されている土地
③通路その他の他人による使用が予定される土地
④土壌汚染がある土地
⑤境界不明確地や所有権の帰属等に争いがある土地
(B)土地の状況次第では承認が認められない土地
①通常の管理に過分の費用・労力を要する一定の崖地
②通常の管理・処分を妨げる地上の有体物がある土地
③通常の管理・処分を妨げる地下埋設物等がある土地
④通常の管理・処分のために隣人等との争訟が必要な土地
⑤通常の管理・処分に過分の費用・労力を要する土地(包括条項)
(3)手数料と負担金の納付(カネの要件)
承認申請者は、承認申請の審査に係る手数料を納付しなければなりません(相続土地国庫帰属法3条2項)。また、承認申請者は、承認処分があった場合、負担金を納付しなければなりません(相続土地国庫帰属法10条1項)。
この負担金は、国庫帰属する土地に関して生ずる管理及び処分に要する費用の一部を土地の管理の負担を免れる程度に応じて承認申請者に負担させるという趣旨のものです。
問題は、この負担金の額ですが、法文上、「国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額」とされているのみで具体的な水準は明確ではありません(なお、本書執筆時点で当該政令は未制定です)。
もっとも、法務省民事局長が、国会において、粗放的な管理で足りる原野であれば10年分で20万円、200平方メートル程度の市街地にある宅地であれば80万円程度という目安を示しています(令和3年3月24日付け衆議院法務委員会〔小出邦夫(法務省民事局長)発言〕参照)。
今後、この水準を前提に政令において具体的な基準が定められるものと考えられます。