もし社長が突然死したら、会社も家庭も「大混乱」の可能性が…
経営者:会社の社長には「相続リスク」があること、そして、相続リスクに備えるため、法人保険を解約して退職金を支払うことが重要だと知りましたが(『〈中小企業の相続・事業承継問題〉苦悩する経営者、続出だが…解決に役立つ「法人生命保険」活用法』参照)、相続リスクにともなう「死亡リスク」について、具体的な解決策を教えていただけますか?
公認会計士:社長の死亡リスクには、法人保険で対応します。契約者と受取人が会社、被保険者は社長です。社長にもしものことがあれば、会社に死亡保険金が支払われますので、これで借入金を返済します。一方で、家族の方々には、会社が死亡退職金を支払うことになります。ただし、株主総会の決議が必要なので、遺産分割協議のあとになるでしょう。
経営者:遺産分割協議について、具体的に教えてください。
公認会計士:遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方について話し合い、合意することです。遺言書があれば、基本的にそれに従って分けるのですが、なければ話し合いで分けることになります。
経営者:その場合、会社の株式はどうなりますか? 私はすべての株式を長男に持たせようと考えています。
公認会計士:突然の相続の場合、遺産は相続人全員の共有となります。そのため、長男1人に株式を取得させるかどうかは、相続人の話し合いで決まることになります。したがって、話し合いがまとまらなければ株主は確定せず、株主総会の決議をおこなうことができません。そうなると遺産分割協議が長引く可能性が高く、死亡退職金を誰にいくら支給するかという問題は、さらに先送りされてしまいます。
社長の退職金には「経費に入れられる限度額」が決まっている
経営者:なるほど。退職前に若くして私が死亡すると、わが家は大混乱になってしまいそうですね。健康には気をつけたいですね。では、元気に70歳まで働くことができたとすれば、退職金をいくらもらえるのでしょうか。
公認会計士:退職金は、経費に入れられる限度額があります。具体的には「退職時の報酬月額×勤続年数×功績倍率」です。社長の功績倍率は3倍とすればよいでしょう。
経営者:実際に計算していただけますか?
公認会計士:承知しました。では、いま毎月の役員報酬はおいくらですか?
経営者:報酬は毎月100万円です。
公認会計士:創業されてから今年で20年と伺いました。あと15年がんばって70歳で引退するとすれば、通算の勤続年数は35年となりますね。その場合、100万円×35年×3倍となって、経費に入る限度額は約1億円となります。
遺産分割のための「終身保険」
経営者:なるほど。1億円の退職金があれば、老後生活も心配ないですね。では「長期平準定期保険」と「終身保険」のどちらに加入すればいいですか?
公認会計士:それは「相続資金」と「老後資金」の2つに分けて考える必要があります。後継者ではない長女と二女の遺産として最低5,000万円程度必要になるなら、相続資金として5,000万円を「終身保険」で用意しましょう。終身保険なら、どんなに長生きしても必ず死亡保険金が支払われるからです。
経営者:退職したあとに、個人で終身保険に加入するのですか?
公認会計士:いいえ。法人契約から個人契約へと名義変更をおこなえばいいのです。保険契約が時価で個人へ移転したと考え、現物支給の退職金という取り扱いとなります。いかがですか?
経営者:なるほど。5,000万円あれば、相続は大丈夫でしょう。
経営者:では、70歳で引退されるときに、退職金として保険契約を現物支給します。そして、この終身保険を相続まで持ち続けるのです。受取人は、後継者であるご長男様とすればよいでしょう。
経営者:長男には株式を相続させるつもりですが、保険金まで長男に渡すことにすれば、長女と二女が怒り出すのではないでしょうか。
公認会計士:この保険金は、長男から長女と二女の2人へ渡すお金とします。これを「代償金」といい、このような分け方を「代償分割」といいます。この分け方を活用すれば、遺産分割の問題が解決するのです。
老後資金のための「長期平準定期保険」
経営者:わかりました。1億円の退職金のうち5,000万円を終身保険で受取るとしますと、残りの5,000万円はどうするのですか?
公認会計士:それは「長期平準定期保険」で準備します。契約者と受取人が会社、被保険者が社長です。保険料は終身保険と同じくらいの金額なのですが、支払った保険料のうち4割が経費に入るので課税の繰延べができますし、保険金額が終身保険よりも2割くらい大きくなるのでお得です。その解約返戻金5,000万円を退職金として現金で支払います。これが社長個人の老後資金となります。
経営者:こちらも、会社に保険料を払っておいてもらうわけですか。そうすると、私個人としては、退職したときに、5,000万円の現金と時価5,000万円の保険契約を受け取るということですね。現金と保険で半分ずつというのはバランスがいいですね。
公認会計士:そうですね。事業承継をおこなうということは「老後の生活資金を準備すること」、そして「相続対策となる資金を準備すること」も意味します。保険料を会社で支払うために法人契約するにしても、退職時には、すべて個人へ名義変更しなければいけません。そのうえで、相続資金は終身保険、老後資金は解約返戻金で準備すると考えればよいでしょう。
経営者:よくわかりました。ありがとうございます。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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