富裕層の「相続税の節税術」のひとつ
生徒:富裕層の方々による相続税の節税に「株特外し」という手法があると聞きました。ウェルスマネジメント部門やプライベートバンキング部門をもつ銀行、証券会社の営業担当者が積極的に提案する節税手法だそうですが、具体的にはどのようなものでしょうか?
先生:「株特外し」というのは、個人財産の相続税評価を下げる節税テクニックのひとつです。実際にはほかのテクニックを組み合わせますが、そのなかでも、株特外しは最終段階の仕上げのテクニックです。
生徒:「節税=相続税を減らす」ことだと理解していますが、相続税評価というのはどういう意味でしょうか?
先生:大まかに申し上げると、相続税は、相続財産の合計額に「税率」を掛けて計算します。正確には債務や基礎控除額を差し引きますが、ここでは単純に考えましょう。相続財産の合計額は、個別の資産の評価額をひとつひとつ足し算で積み上げて計算します。
生徒:個別の資産を評価額で足し合わせて、ということですが、土地や建物など時価がわからないものは、どうやって評価するのですか?
先生:その方法は法律で規定されており、資産の種類によって方法が異なります。土地の場合は路線価方式などを使いますが、そうすると、もっとも金額が安くなるような種類の資産に組み替えれば、全体の合計額が小さくなります。
生徒:「資産を組み替える」とはどういうことですか?
先生:組み替えの方法のひとつとして、金融資産から不動産に組み替えることがあげられます。これだけで評価額は大きく下がります。賃貸用のタワーマンション等を保有すると、評価額は5分の1くらいに下がるのです。
生徒:そうなんですね。しかし、金額が下がるなら、売却時に損をすることになりませんか?
先生:いいえ。同じ価値でも、相続税を計算するための評価額だけ下がるのです。数字は小さくなりますが、価値は変わりません。法律上、そういう規定になっているというだけで、なにも問題はありません。
生徒:同じ価値がある資産でも、相続税のかかり具合が異なるんですね。
会社経営者なら「持株会社を作る」という節税スキームもあり
先生:もうひとつ、会社経営者のための節税手法ですが、「持株会社を作る」ことがあげられます。会社経営者は、自分の経営する事業会社の株式を持っていますが、業績好調で事業会社の規模が拡大すると、その株式の評価額が高くなっていきます。すると、事業会社の株式を持つ持株会社を新たに作り、その株式を持つようにするのです。これによって評価額を下げることができます。
生徒:複雑ですね。自分が持株会社の株式を持ち、持株会社が事業会社の株式を持つということですね。2階建ての資産というわけですね。
先生:ただし、持株会社が持っている資産のうち、半分以上が株式となってしまうと、評価額が下がらないという特別なルールがあります。このような状態を株式保有特定会社、略して「カブトク」といいます。ですから持株会社は、株式以外の資産の割合を増やさないといけないのです。これが「カブトク」を外すという意味で、「株特外し」と呼ばれる節税手法です。先にも述べましたが、金融機関の営業担当者が富裕層に提案する手法です。
「株特外し」の具体的な手法
生徒:「株特外し」をする場合、事業会社の株式以外にどんな資産を持つのでしょうか?
先生:基本は不動産です。不動産そのものの評価額が低いことは上述の通りです。区分所有マンションでも、商業ビル1棟でもいいでしょう。あとは、船舶や航空機でもいいでしょう。資産そのものの評価額は下がりませんが、投資信託やETFなどの金融資産を購入したり、法人契約の生命保険を契約したりしても株特外しの効果があります。
生徒:個人で航空機を買うことなんてあるのでしょうか?
先生:当然の疑問ですね。上場企業の大株主など、個人で数百億円という上場株式を持っているからこそ、株特外しの手段として、1機100億円といった高額の航空機を購入するのです。とはいえ、航空機の所有権を小口化した商品も販売されていますよ。
生徒:それでも、ビル1棟や航空機など、とても大きな投資になりますが…。
先生:それは事業会社の収益性次第です。事業会社が儲かっていて、安定的にお金を稼いでいるのであれば、銀行が不動産を担保にして融資してくれます。銀行が、株特外しのための不動産や航空機を提案するのは、その購入資金の融資のチャンスを狙っているからなのです。
生徒:では、生命保険の契約はなぜ資産となるのでしょうか?
先生:終身保険の場合、支払った保険料の全額が「保険積立金」という資産として積み上がっていきます。これは保険というよりも貯蓄商品なので、金融資産と同じようなものと考えたらいいでしょう。
生徒:このような節税手段は、法律違反ではないのでしょうか?
先生:法律違反ではありませんが、節税目的で、合理的な理由がなく株特外しを行った場合は、株特外しが認められないこともありますので、注意が必要です。たとえば、贈与や相続の直前に、節税だけを目的とした株特外しを実行すると、「租税回避行為」として認められない可能性が高いといえます。株式以外の資産を取得しようとするときは、資産運用やリスク管理など、その資産を取得する合理的な理由、経済的なメリットを考えておかなければいけません。
生徒:よくわかりました。ありがとうございました。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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