(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの主流経済学者の間で「国債を発行すると民間貯蓄が減り金利は上昇する」という考え方が信じられています。しかし、現実には、日本ではその逆に、国債を発行し続けても民間貯蓄は増え金利が下がり続ける現象が起きています。一体どういうことなのでしょうか?評論家の中野剛志氏が新刊著書『どうする財源——貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)より、

「国債の発行」で民間貯蓄は増える

多くの主流派経済学者は、国債を発行すると金利が上昇すると主張します。

 

なぜでしょうか。

 

後ほど、改めて論じますが、多くの主流派経済学者たちは、国債を購入する際の原資が「民間貯蓄」であり、国債を購入した分だけ民間貯蓄が減り、その分だけ、民間の設備投資に回せなくなると考えているのです。

 

しかし、日本は、これまで長年にわたり国債を発行し続け、政府債務を積み上げてきましたが、金利は下がり続け、ずっと超低金利状態が続いています([図表1])。

 

(出典)政府の長期債務残高、長期金利ともに財務省
[図表1]政府の債務残高と長期金利 (出典)政府の長期債務残高、長期金利ともに財務省

 

どうして、日本の金利は上がるどころか、低迷しているのでしょうか。

 

それは、今のところ、国債を購入できる民間貯蓄が潤沢にあるからだというのが、主流派経済学者たちの考えです。

 

財務省の財政制度等審議会も同じ考えのようで、たとえば2014年5月の「財政健全化に向けた基本的考え方」の中でこう述べています。

 

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「諸外国と比較しても、歴史を振り返っても、我が国の債務は、ほとんど他に類を見ない水準まで累増しているが、これまでは家計が保有している潤沢な金融資産と企業部門の資金余剰という国内の資金環境を背景に、多額の新規国債と債務償還に伴う借換債を低金利で発行できている。」

(財務省「財政健全化に向けた基本的考え方」より)

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国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議「報告書」も、「足元では貿易赤字が続くとともに、長期的には成熟した債権国としての地位も盤石である保証はない。資金調達を海外投資家に依存せざるを得ない事態に備えることも念頭におく必要がある」と指摘していました。

 

これも、いずれ、国内の民間貯蓄がなくなり、国債を海外投資家に購入してもらわなければならない事態が来ることを懸念しているのでしょう。

 

しかし、国債の発行が増えたせいで民間貯蓄が減るなどということは、起き得ないのです。

 

貨幣とは、負債の一種です。そして、民間銀行が貨幣を企業に貸し出すと、預金が生まれます。つまり、企業が銀行から借り入れることで、預金(貯蓄)が増えているわけです([図表2]参照)。

 

[図表2]甲銀行がA社に1000万円を貸出し(貨幣[預金通貨]の創造)

 

そして、政府が中央銀行から借入れを行い、支出を行うと、支出先の民間企業の預金が増えます。

 

すなわち、政府の赤字財政支出により、民間貯蓄は減るのではなく、その反対に増えているのです。

 

赤字財政支出が民間貯蓄を増やすというのは、実は、当たり前のことです。

 

たとえば、2020年のコロナ禍の中、政府は、国民1人に対して10万円の定額給付金を配ったことがありました。

 

その際、定額給付金に反対する論者たちは、「給付金を配っても、貯蓄されるだけで消費には回らない」と言って批判していました。

 

しかし、定額給付金が貯蓄に回るということは、まさに、政府支出によって貯蓄が増えていると認めているのではないでしょうか。

 

さて、赤字財政支出が民間貯蓄を増やすのだとすると、「国債の発行により、いずれ民間貯蓄がなくなり、金利が上昇する」などということは、あり得ないということになるでしょう。

 

だから、[図表1]のように、政府債務が積み上がっても、金利が上昇するということはなかったのです。

 

貨幣が負債であることや、信用創造という資本主義の仕組みを理解していれば、何も不思議なことはありません。

次ページ政府支出の実際

※本連載は中野剛志氏の著書『どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社)より一部を抜粋・再編集したものです。

どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み

どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み

中野 剛志

祥伝社

21世紀の経済原論 あらゆる経済政策には、財源の裏づけが必要である。政府は往々、財源として増税を実行する。では、私たち国民は、増税の根拠となる「財源」についてどれほど知っているだろうか。本書では、貨幣とは何かと…

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