(※写真はイメージです/PIXTA)

共働きが主流となった日本の家庭。夫婦2人で厚生年金を受給できれば、老後もそれなりに過ごせるだろう。だが、その先まで考えている家庭は多くない。もし配偶者に先立たれたときの年金額はどうなるか。会社員だった妻の場合、しばしばその仕組みを勘違いしていることもあるため、注意が必要だ。

67歳・元会社員女性…夫他界後の年金額に呆然

3歳年上の夫が突然死――。ショックな出来事に、憔悴した様子を見せるのは、67歳の元会社員女性のAさんだ。

 

AさんとAさんの夫は、それぞれ60歳まで会社員として勤務。Aさんが65歳になってからは、夫婦それぞれの年金で、それなりの金額を受給していた。

 

「会社員時代は多忙で、2人の時間なんて取れませんでした。〈これからは夫婦2人、のんびり楽しく暮らそうね〉っていっていたのに…」

 

大切な夫を失ったショックから立ち直れないAさんに、さらなる衝撃が走る。夫の他界後に振り込まれた年金額を見て、思わず目を疑ったのだ。

 

「自分の年金にプラスして〈遺族年金〉が受け取れるのではないんですか? 夫婦2人、あんなに働いてきたのに…」

 

夫が亡くなり、その夫に生計を維持されていた妻や子どもがいる場合、その方たちは「遺族年金」を受け取ることができる。「遺族年金」には2種類あり、「国民年金」からは「遺族基礎年金」が、「厚生年金」からは「遺族厚生年金」が支払われる。

 

[図表]遺族年金受取額早見表  ※子の加算:1人目・2人目=各224,700円、3人目以降=各74,900円
[図表]遺族年金受取額早見表
※子の加算:1人目・2人目=各22万4,700円、3人目以降=各7万4,900円

 

こちらの表の条件を満たす場合、亡くなった方が自営業などの「国民年金」のみの加入者なら「遺族基礎年金」のみが受け取れ、亡くなった方が会社員などの「厚生年金」加入者なら「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」両方を受け取ることができる(別途、亡くなった方の年金の加入要件あり)。

自分の老齢厚生年金か、夫の遺族厚生年金か

Aさんの家庭は、夫婦ともにずっと会社員だった。したがって、お互い65歳以降は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取ることができる。

 

しかし、Aさんは誤解していた。夫が先に他界した場合、夫の「老齢厚生年金」の4分の3の額を「遺族厚生年金」として受け取れると思っていたのだ。つまり、夫の他界後、妻は①自分の「老齢基礎年金」、②自分の「老齢厚生年金」、③夫の「遺族厚生年金」の3種類が受給できると思っていたのである。そのため、夫の死後も生活費は心配ないと考えていたのだ。

 

だが、Aさんのような「老齢厚生年金」を受け取れる妻の場合、下記の3パターンから、いずれかを選ばなくてはいけない。

 

①遺族厚生年金のみを受給(=夫の老齢厚生年金の4分の3)

 

②自らの老齢厚生年金のみを受給

 

③遺族厚生年金の3分の2と自らの老齢厚生年金の2分の1を受給(=夫と自分の老齢厚生年金の合計額の2分の1)

 

ひと言でいうなら、自分の老齢厚生年金か、夫の遺族厚生年金か、重なる金額の部分については、どちらかしかもらえない。

 

この①~③の各パターンについて、夫の遺族厚生年金8万円、妻の老齢厚生年金6万円と仮定した場合を計算してみよう。

 

①遺族厚生年金のみを受給

夫の「遺族厚生年金」のみ8万円を受け取れる。

 

②自らの老齢厚生年金のみを受給

自分の「老齢厚生年金」の6万円を受け取り、夫の「遺族厚生年金」は受け取れない。


③遺族厚生年金の3分の2と自らの老齢厚生年金の2分の1を受給の場合

夫の遺族厚生年金から約5万3000円、自分の老齢厚生年金から3万円の合計約8万3000円を受け取れる

 

たいていは、この選択肢から1番金額が大きいものを選ぶことになるだろう。しかし、1点注意すべきことがある。それは、「遺族年金は非課税」だが、「自らの老齢厚生年金は課税対象」ということだ。自分の老齢厚生年金のほうが夫の遺族厚生年金よりも多いからといって、自分の老齢厚生年金を選ぶのは、得策ではないかもしれない。

夫亡きあとの年金額に覚える「不条理」

もうひとつ注目すべきは、夫の「遺族厚生年金」を満額受け取っても、「国民年金」からの支給である自分の「老齢基礎年金」には影響を及ぼさないという点だ。

 

つまり、専業主婦や自営業として働いていた妻は、夫の死後、自身の老齢基礎年金と夫の遺族厚生年金を受け取れる。つまり、専業主婦や自営業として働いてきた「妻」と、ずっと会社員として働いてきた「妻」で、夫の死後に受け取る年金額はたいして変わらないのである。

 

会社員などの厚生年金加入者は、国民年金のみの加入者より年金制度上優遇されているといえる。それは年金保険料として支払う金額に差があるからで、その意味では当然だろう。

 

しかし「遺族厚生年金」は事情が違う。厚生年金に加入して、多額の年金保険料を納めても、自分の老齢厚生年金があるために、夫の遺族厚生年金が受け取れない、あるいは減額されることになる。

 

「…あんなに働いてきたのに?」

 

Aさんと同じ悲痛な思いをしている、元会社員だった妻たちは、かなり多いのではないか。


 

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