前回は、「グルコサミンとコンドロイチン」の臨床研究の問題点について説明しました。今回は、「グルコサミンとコンドロイチン」の臨床研究を巡る議論について見ていきます。

論争に終止符を打つべく、新たな臨床試験が・・・

前回からの続きです。昨年、私が大会長をさせていただいたグルコサミン研究会学術集会では、グルコサミン療法の生みの親ともいえるセオドサキス先生にビデオ講演をしてもらいました。そこで今までの臨床試験のReview(評価)をしてもらったのですが、グルコサミン否定派の研究の多くにグルコサミンの用量不足、観察期間不足が見られるということでした。

 

治験では用量設定というのは研究の中で一番重要な行程であり、この設定が甘い研究が多いといえます。さて、このようにグルコサミン・コンドロイチンを巡る論争は肯定派と反対派に分かれ学会でも大きな議論になってきました。

 

そこで、この論争に終止符を打つべく計画されたのが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)とその下部組織、国立補完代替医療センター(NCCAM)が中心となり行われたGAIT(Glucosamine/ Chondroitin ArthritisIntervention Trial)で、2006年NEJMに発表されました。

 

この臨床試験は、3238人の被験者をグルコサミン1500㎎、コンドロイチン1200㎎、グルコサミン+コンドロイチン併用、NSAIDsであるセレコキシブ、プラセボ(偽薬)の5群に分け、24週間後の症状の改善と安全性を評価するという非常に大規模なものでした。これまでの臨床研究では200〜300人の被験者数でしたから、約10倍の規模です。

 

試験結果を見ると、全症例の中で非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のセレコキシブ群だけが有意に改善していましたが、中・高度の痛みがあるグループ(図表のグラフの一番右の群)では、グルコサミン+コンドロイチン群のみが有意な改善を示していました。すなわち、痛みが強い変形性関節症の人ほど、グルコサミンとコンドロイチンがよく作用したということです。

「プラセボ」の有効率が高くなってしまった理由とは?

一見、効果があることを示しているこの臨床データのどこが問題だったかというと、プラセボ(偽薬)を投与した人たちの有効率が約60%と非常に高かった点でした。つまり、効かない薬を飲んでいる10人に6人もの人が「効いている」と判断したのです。

 

通常の臨床試験では、プラセボの有効率は20~30%程度です。そのほぼ2~3倍の有効率が出たこの調査自体が、試験としてほとんど意味がないものと見なされてしまいました。

 

プラセボの有効率がここまで異常に高くなった理由は諸説ありますが、試験前の患者さんへの説明(臨床試験ではインフォームドコンセントといい、試験で飲むことになる薬の効果や副作用、プラセボに当たる可能性と確率などを詳細に説明し同意を得なければいけません)で、今回の試験ではプラセボにあたる確率が5分の1であり、「自分の飲む薬はきっと効くはずだ」と感じる人が多かったことが原因ではないかと思います。

 

さて、この試験ではプラセボが60%も効いてしまったわけですが、60%も効いたプラセボより、さらに効果があったということは、非常によく効いたということになります。つまりこの試験は、「全症例の中ではセレコキシブだけが効果があり、中等度から重度の痛みを持つ症例にはグルコサミンとコンドロイチン併用のみが明らかな効果を示した」という結論になるはずです。

 

ところがこの論文の著者クレッグ先生は、次のような結論に達します。「グルコサミン、コンドロイチン、その併用は変形性膝関節症の痛みに対してプラセボと同様の効果しか示さなかった。唯一セレコキシブのみが有意な効果を示した。しかし中等度から重度の痛みのある関節症にはグルコサミン、コンドロイチン併用群は効果があるのかもしれない」。

 

そして、この結論はその後の統計研究に大きなネガティブバイアスを生んでいきます

 

[図表] GAIT studyにおける有効率(WOMACペインスコア)

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『その痛みやこわばり、放っておくと危険! ひざに「! 」を感じたら読む本』から抜粋したものです。記載内容は予防医学の観点からの見解、研究の報告であり、治療法などの効能効果や安全性を保証するものではございません。

その痛みやこわばり、放っておくと危険! ひざに「!」を感じたら読む本

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橋本 三四郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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