「家族信託」は契約だが「遺言書」は契約ではなく希望
(5)「法定相続分」と異なる分割も自由です!
「法定相続分」については、誤解が多いので注意しておきます。
「法定相続分」とは、「この法律の通り分けなさい」というものではありません。
遺言で自由に分けられます。特定の相続人には特に大目に…ばかりでなく、お世話になった相続人でない人、たとえば介護してくれた嫁などへ「遺贈する」と書けます。
ただし、特定の相続人やその他の人にあまりに多くを渡すと、他の相続人の「遺留分」を侵害することがあります。兄弟姉妹以外の相続人には、通常は法定相続分の半分の「遺留分」がありますから、相続人から遺留分を請求されたら、その分は渡さなければなりません。
ということは、請求されなければ渡さなくてもかまいません。前の見本のように「その他の財産はすべて妻へ」と書いても、通常、子どもたちは遺留分の請求をしてこないものです。あくまで我が家のケースでの想像ですが、私も死んでみないとわからないものです。
遺言書がなければ、相続人で話し合い、自由に分けられます。さらには、遺言書通りでなくとも、相続人全員の同意で、遺言書と違う分け方も可能です。
「家族信託」は契約ですから、親子が納得する必要があります。しかし「遺言書」は、契約ではありません。親からの一方的な財産処分などの希望です。だから、誰にも見せる必要はありません。もちろん、見せてもよいですが…。
では「法定相続分」はなぜあるのかと言えば、上記の遺言書や相続人全員の話し合いで合意が得られないときは、家庭裁判所へ〝調停〟の申し立てとなります。
その際に、最後の最後に裁判官がエイヤーと〝審判〟を下すときに使う相続割合が「法定相続分」なのです。
家族間のもめ事はいわば痴話げんかで、昔のことや愛憎がからみあって、そもそも公正な分け方ができません。それでも放置しておくと、国民の生活が穏やかになりません。仕方なく、家庭裁判所が、エイヤーと、決めてしまわなければ収まらないのです。
牧口 晴一
税理士
行政書士
法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人