アメリカ文化にとって大きな意味を持つ80年代
とはいえ、80年代は映画界に次々と黒人スターが誕生した。
『ビバリーヒルズ・コップ4』で人気を博したエディ・マーフィや、『天使にラブソングを…5』で人気が爆発したウーピー・ゴールドバーグ。アパルトヘイト問題を描いた『遠い夜明け6』で注目されたデンゼル・ワシントンは、後の2001年に『トレーニングデイ』でアカデミー主演男優賞に輝いている。
※4『ビバリーヒルズ・コップ』(Beverly Hills Cop) 1984年 監督:マーティン・ブレスト 出演:エディ・マーフィ ▶デトロイト市警の刑事アクセルは捜査の腕はいいが問題児だ。ある時、ビバリーヒルズから出てきた幼馴染マイキーが訪ねてくるが、何者かに殺されてしまう。犯人を捜すため、アクセルはビバリーヒルズに乗り込む。
※5『天使にラブ・ソングを…』(Sister Act) 1992年 監督:エミール・アルドリーノ 出演:ウーピー・ゴールドバーグ、マギー・スミス、ハーヴェイ・カイテル ▶ギャングのボス・ヴィンスの愛人だったデロリスは、彼の殺人現場を目撃してしまう。その場から逃げたデロリスは身の安全のため警察に駆け込む。警察は彼女を修道院に匿(かくま)い、デロリスはそこで聖歌隊の指導をすることになる。
※6『遠い夜明け』(Cry Freedom) 1987年 監督:リチャード・アッテンボロー 出演:ケヴィン・クライン、デンゼル・ワシントン ▶1970年代、アパルトヘイト政策下の南アフリカに、スティーブン・ビコという活動家がいた。当初は白人憎悪を煽る人物と思っていた新聞記者のドナルド・ウッズは、ビコのことを知るに従い彼に共感していく。だが、ビコは逮捕され護送中に命を落とす。
保守化が進む一方で、人々の意識には変化の兆しも現れていたのだ。
そして政治の世界でも89年、デイヴィッド・ディンキンズが、ニューヨークで初めての黒人市長として選ばれた。その年、冷戦の象徴でもあったベルリンの壁が崩壊した。
時代の潮流は確実に変わりつつあった。
ソ連の新しいリーダー、ゴルバチョフは、改革開放を意味するペレストロイカを推し進めた。彼と共に宥和(ゆうわ)への道筋を作ったのが、かつてソ連を「悪の帝国」と呼んではばからなかったレーガンだったのは歴史の皮肉だ。
80年代とはどのような時代だったのか。シュルマンと、作家カート・アンダーセン(「ニューヨーク・マガジン」元編集長)は次のようにまとめる。
【シュルマン】
「1980年代は冷戦でも勝利を得て70年代の低迷を乗り越えて好景気に入り、レーガンが体現したように世界や歴史におけるアメリカの役割に自信が持てました。
ですが同時に水面下には批判的な声もありました。1980年代のアメリカ文化はこの2つの対立する声として理解する必要があります」
【アンダーセン】
「1980年代は全ての人が上り調子だったわけではありません。金持ちはうまくいっていましたが、多くのアメリカ人がそうでなくなりつつありました。そして90年代までには困っている人々が増加し、高すぎる大学の学費など、アメリカン・ドリームの終焉と停滞が見えてきました。
かつて50年代60年代70年代の中産階級の台頭と共に起きた素晴らしいことは全てストップしてしまったことが、1990年代に明らかとなるのです」
丸山 俊一
NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー