今日の日本に酷似?自動車産業の衰退…人種差別…映画から学ぶ「1980年代のアメリカ」の姿とは

今日の日本に酷似?自動車産業の衰退…人種差別…映画から学ぶ「1980年代のアメリカ」の姿とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

戦後、日本にとってアメリカは、常に先を行く存在でした。今日、日本では経済の停滞が長引き、一部に偏狭な排外主義がみられます。翻って1980年代のアメリカ社会の状況をみると、現在の日本と奇妙に重なります。本記事ではNHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書「アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望」より、映画を通して1980年代のアメリカを語ります。

人種問題の複雑さー『ドゥ・ザ・ライト・シング』

ただ、こうした反発の根っこは経済だけではなかっただろう。そこにはアメリカ社会に深く残る人種差別的な考え方があった。

 

黒人人口の70%が公民権運動を経て、中産階級になったとも言われる80年代。しかし、つぶさに見ると、景気回復の恩恵は富裕層に留まり、アンダークラスと呼ばれる層が増加。貧困問題と共に、様々な人種間での差別が根強く残っていた。

 

黒人だけでなく、ヒスパニックやアジア系が増える中で、人種問題はますます複雑に解きほぐしがたくなっていた。その様子を鮮やかな手法で表現したのが、スパイク・リーだった。

 

『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット2』(1985)のヒットで評価を得た彼が満を持して送り出したのが『ドゥ・ザ・ライト・シング3』(1989)だ。

※2『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(SHE’S GOTTA HAVE IT) 1985年 監督:スパイク・リー 出演:トレイシー・カミラ・ジョンズ、トニー・レッドモンド・ヒックス、スパイク・リー ▶ブルックリンに住む、アーティストのノーラ・ダーリング。彼女は、3人の恋人と付き合っていた。束縛を嫌い、自由な生活を楽しんでいるノーラに、ある日、恋人の1人がこの恋愛ゲームへの結論を迫ってきた。

 

※3『ドゥ・ザ・ライト・シング』(Do The Right Thing) 1989年 監督:スパイク・リー 出演:スパイク・リー、ダニー・アイエロ ▶ブルックリンの黒人街に住む若者ムーキーは、イタリア系のサル一家が営むピザ屋で配達の仕事をしている。ピザ屋で起きたあるトラブルの混乱のさなかに、ラジオ・ラヒームが警察に首を絞められ死んでしまった。それをきっかけに黒人たちは暴徒となってサルの店になだれこむ。

 

スパイク・リー自身が演じる黒人の若者ムーキーは、ブルックリンのピザ屋で配達の仕事をしている。その店はイタリア系家族の経営だが、黒人街にあり、客は黒人ばかり。

 

オーナーであるサルの2人の息子はムーキーと同世代、兄ビトは黒人を嫌っているが、弟ピノはムーキーと仲良しだ。街には、イタリアやアイルランドなどのヨーロッパ系やヒスパニッシュ、韓国系の移民など多様な人物が住んでいる。

 

映画の象徴的な場面として、歴史家のブルース・シュルマン(ボストン大学教授)は次の場面をこう取り上げる。

 

「黒人を忌み嫌うビトに対して、ムーキーが言い返す場面が印象的です。ムーキーはビトに問います。『好きなスポーツ選手は?』『マジック・ジョンソン』『好きな俳優は?』『エディ・マーフィ』『好きな歌手は?』『ブルース・スプリングスティーン』『そうじゃない、プリンスだろ?』……そう、これらは皆黒人です。

 

『黒人たちに憧れているんだ』と指摘されたビトは言います。『彼らは〈本当は〉黒人じゃない。黒人を超えた黒人だ』この会話には、白人アメリカ人の他人種に対する態度と矛盾があぶり出されているのです」

 

映画は突然の暴力で幕を閉じる。うだるような暑さに街の人々の緊張は高まり、ついに小競り合いが大きな破壊へとつながってしまうのだ。スパイク・リーの映画はどこかコミカルで淡々としながらも、人種間の問題の複雑さを鮮やかに描き出している。

次ページアメリカ文化にとって大きな意味を持つ80年代
アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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