契約における法律と実務のジレンマ
他方、法律、契約の基本からすると、「契約締結時点で、工事内容・工事代金を決めておきなさい」というのが基本的な考え方です。
トラブルが生じた場合には契約時点の取り決めをもとに解決していかねばなりません。ただ、実務上は、契約時点では、すべてを決め切ることはできず、ほとんどの工事で工事内容の追加変更をしていかねばなりません。
そうすると、実際上は、工事しながら工事内容を変更することでより詳細が決まっていくという実務と、契約時点で取り決めをしっかり行っておきなさいという法律(法的に整理すると、本来は、契約時の建築請負工事契約だけではなく、追加変更の必要が生じたその都度、契約内容の変更契約がなされたと整理できます)との間でギャップが生じてしまいます。そのため、追加工事とその代金で、揉め事が非常に多くなるのです。
要は、変更したら、変更内容とそれに対する工事代金をお互いしっかりと取り決めなければならないのです。ただ、これができておらず揉めるケースが非常に多いわけです。
工事会社:「当初と設計を変えなきゃいけないので、工事内容を〇〇〇に変更してやっておきますね」
不動産投資家:「了解しました! よろしくお願いします!」
こんなやり取りだけで、工事内容を変更してしまいがちです。
そして、工事完成、建物引渡しの段階になって、以下のようなやりとりが交わされることになってしまうことになるのです。
工事会社:「工事内容に変更があったので、追加で200万円かかりました。こちらもお願いしますね!」
不動産投資家:「えっ、聞いてないんだけど」
工事会社:「えっ、言いましたよ。作業員の人件費などでこっちもお金かかってるので、絶対払ってください」
不動産投資家:「いや、聞いてない。当初の融資計画にもないし、払いたくても払えないよ……」
建築工事トラブルは、本当にこの手のトラブルが非常に多いです。
私の専門分野とは少し離れるのですが、IT系のシステム作成やプログラム作成契約についても同様の難しさがあるようです。
「○○プログラム」や「△△システム」作成契約などと一式の金額で契約するものの、契約後に発注者からの仕様や機能の変更が多岐にわたり、再三、費用や変更内容等を協議しなければならない内容になっています。
システム開発に携わっている方はよくおわかりかと思いますが、プログラム制作契約も建築請負契約もどちらも最高難易度レベルの契約類型だと思います。
したがって、双方が「動いていく、生きている」契約内容だ、契約した時点で終わりじゃないんだと認識しておかないと、いろいろと齟齬が生じ得る契約類型だと言えます。