ではどうする? 具体的な不動産売買のリスクヘッジを考える
◆買主側の視点での対策
では、泣き寝入りしかないの? と重たい気持ちになってしまったかもしれませんが、ご安心ください。そうではありません。
この契約不適合責任に関しては、起きた後には法的に処理するほかありませんが、契約前であれば、売買代金決定の一要素になるのです。
いわば、たとえば契約不適合責任を免責するのであれば、その分代金を減額するべく交渉すべきですし、仮に何らかの事情で調査ができておらず、不測の事態が発生しそうな要素が大きいのであれば、その分の価格交渉をすべきです。
また、それらの価格交渉が全くできずに、リスクが不確定な物件であれば、そもそもリスクまで考慮すれば採算の合わない物件だとして購入を見送ればよいのです。
誤解をおそれずに言うなら、決済後に契約不適合等を発見してしまった際には、もう手遅れという場面はあります。そのため、契約前にリスクの洗い出しと、そのリスクを踏まえた代金額交渉をなすべきなのです。
すなわち、不動産取引においては、法的な売買条件も代金額決定の大きな要素であることを理解、勉強しておかなければ、遅れを取る可能性があると言えます。
したがって、決済後に契約不適合責任を追及するほかない時点では手の打ちようがない状態であったとしても、その前の契約交渉、そもそもどの物件を購入するかの時点では十分にリスクヘッジする機会が与えられていると言えるのです。
高額な不動産を購入するのですから、仲介会社や売主に嫌な顔をされても、「注文の多い買主」であることは、自分の身を守ることにつながっていくでしょう。
弁護士の私がいうのもなんですが、大家業を行うにあたって、「法律が守ってくれる」なんて甘いことを考えていてはいけません。裁判所は、国家による紛争解決機関でしかなく、また、法律もトラブルが発生した場合にできる限り公平かつ合理的に解決しようとするルールでしかありません。
法律は、必ず個々人を不測の事態から救ってくれるというものではないのです。
大家業を行ううえでは、法律の限界についても勉強して、自衛していくべきでしょう。
◆売主側の視点での対策
売主側も同様です。近年は、海外のように日本でも法的な意識が高まりつつありますが、それは一歩間違えばクレーマーのように過剰な法的請求に自分が巻き込まれる危険性もあるということです。
まずは、価格交渉をされたとしても、「契約不適合免責特約」を入れた契約にすることです。
次に、大家さんが「知っていたこと」については、免責特約をひっくり返される可能性がありますから、保有した物件の記録化は重要だと思います。
また、仮に自分が知っている可能性があることについては、先に事情を話してそのうえで代金額を決定しておいたほうが良いと思います。
裁判は最後に勝とうが負けようが、相手が起こして来たら付き合わざるを得ません。裁判はどうしても自分一人で対処するのが難しいですし、巻き込まれるだけでも弁護士費用が発生してしまいます。
そのため、とにかく巻き込まれないように、できる限り誠実に取引に臨むのが良いと思います。
山村 暢彦
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士