販売査定価格はあくまでも「努力目標値」
前回の続きです。この場合、K社、L社の営業マンが出してきたのは、あくまでも販売査定価格。「この額で売ります」ということではなく、「この額で売れるようにがんばります」という努力目標値なのです。
ここに不動産の査定のカラクリがあるのです。よく車を売るときに査定をしてもらいますよね。「この車は状態がいいから100万円です」とか「ちょっと年式が古いので、がんばって30万円ですかね」といった具合に。それは実際に業者が買い取る価格です。100万円といったら100万円、30万円といったら30万円で買い取ります。
ところが不動産の場合は不動産会社が自分でその物件を買うわけではない。不動産会社は売り手と買い手の間を「仲介」する斡旋業者なわけです。
売り主は「少しでも高く売りたい」と思うものですが、不動産会社の言う「販売査定」は実際の売却契約でもなんでもないことをしっかり認識していただきたいのです。「当社なら売れる」「ウチは全国的に有名だから安心!」と営業マンはいろいろおいしそうなことを言ってきますが、契約が欲しいがための根拠のない決まり文句といって過言ではありません。
結局、相場より安い「買い取り価格」で業者の手に
さて、L社に依頼をしてマンションを売りに出したIさんですが、なかなか買い手がつきません。当然です、相場より高いのですから。
「3月から娘夫婦と同居」というはっきりした期限がある以上、悠長なことは言っていられません。
「君、この価格で売れるって言ってたじゃない!」
L社の営業マンをせっつくIさん。
「う〜ん、売れる時は売れるんですけどねぇ」
のらりくらりとかわされて、イライラが募ります。
「困るよ、そろそろリフォーム工事に入らないと3月に間に合わない。引っ越しだってあるんだから」
「では値段を下げましょう」
そこで少し値段を下げて売りに出しましたが、やはり買い手はつかず。仕方なくまた下げる・・・。
それでも売れない。結局どうなったかというと、相場よりかなり安い「買い取り価格」で業者に売却することになってしまったのです。もうリフォーム工事をはじめなければ間に合わないというタイムリミットぎりぎりの選択でした。
スピードか金額か…重視するもので販売価格の設定を
「こんなことなら最初から相場で出しておけば、もっと早めに買い手がついたかもしれない。そうしたら買い取り価格で売らずに済んだのに」
Iさんは後悔の思いを抱えたままです。最終的に売却価格を決めるのは売り主ご本人です。たとえばIさんに時間的な余裕があり、「そのうちに売れればいいよ」と考えているなら、「販売査定」でもよかったかもしれません。しかしIさんは「この日までに売却したい」というタイムリミットがありました。
スピード重視なのか、金額重視なのか、いずれにしても、売り主ご自身の実状に合わせて適切に販売価格を設定することが円満成約のカギです。でもこうした売り主さんの事情を考慮するどころか、目が「$」マークになってしまっている営業マンが少なくないのが現実です。
「あれ? 安いと思った別の業者の査定金額よりもさらに安くなってるじゃない!」気づいたときは後の祭り。結果的に当初の査定価格よりも安い金額で業者に買取りされることになるのです。
この「高額査定」は、先ほどの「囲い込み」とセットとなっていることが多いのです。言葉はよくないけれど、これはもう「詐欺に近い行為」と言っても過言でないと思います。