今回は、利益優先の不動産会社による「囲い込み」の実態について見ていきます。※本連載は、株式会社ハウジングサクセスの代表取締役・金子徳公氏の書籍『我が家を売る時も買う時も絶対に損しない方法』(現代書林)の中から一部を抜粋し、不動産業界の衝撃の裏側をご紹介します。

「うちで売れなければどこでも売れない」は本当か?

囲い込みの実態を筆者はイヤというほど見てきました。筆者は子どもの頃からヘンに正義感の強い人間なので、こういうずるいことをする人がいるのを黙って見ていられないのです。

 

以前賃貸を仲介させていただいたGさんが、不動産を売りに出していたんです。都内の3LDKのマンションで、広さは70㎡ちょっと。築15年ぐらいの、よい条件の物件でした。

 

ひょんなことからそれを知った筆者がたまたまGさんに会ったときに「あれ、売りに出しているんですね」と声をかけたんです。Gさんは「ああ、そうそう。H社で頼んだんだ」と言っていました。H社というのは業界では準大手の会社です。

 

そしたらしばらくしてGさんから連絡がありました。

 

「なかなか買い手が見つからないんだけど、金子さんにちょっと相談に乗ってほしい」と言うんです。それでお会いして話を聞いたら、H社がGさんの物件に付けた販売額というのが、そのあたりの相場より1割ぐらい高い。

 

「Gさん、これちょっと高くないですか?」と正直に言うと、Gさんは「実は僕もそう思うんだよ」と言うんです。

 

「でもH社の営業マンはこれでイケるというし、ほかのどこで査定をしても変わらないと言うんだよ。じゃあどうしてなかなか売れないのかと聞くと、『うちで売れなきゃどこでも売れませんよ』と言うんだ」

 

「うちで売れなければどこでも売れない」、先ほども紹介しましたが、大手の常套文句です。これはもう「囲い込み」が行われているのだと容易に想像がつきました。

 

そもそもそこは普段から囲い込みを行う会社なのです。もちろんそれだけで断定はできないけれど、これだけのよい物件がこんなに動かないということはやっぱり何かあると思った方がいいと申し上げました。

 

このほかにも、いろいろ思いつく限りのアドバイスをして差し上げたところ、「もうH社はやめて金子さんのところにお願いしたい」とおっしゃるので、うちでお引き受けすることにしました。

 

今の価格では少し高過ぎるから、少しだけ下げて、2週間様子を見て、それで動きがなかったら次の手を打ちましょうと申し上げました。こうやって期限をハッキリ設定することで、お客様も安心して待ってくださるのです。

 

それで販売をかけたところ、すぐに3組ほど購入希望者が現れました。そのうち2組に見込みがありそうでした。「ここは経験上、下手に動かないで返事を待った方がいい」とGさんに告げて待っていたところ、1週間もたたないうちに、一人から「買います」という返事があり、その1週間後には契約していました。

 

その人はちょうどそのエリアでフルリフォームのできる物件を探していらしたのです。結局、最初の希望額より、50万円下がっただけで売却できました。これはいわゆる「片手」取引でした。もしうちが「囲い込み」を行って、情報を隠していたら、こんなにすぐに決まらなかったでしょう。売り手、買い手であるお客様、仲介業者が紹介しやすい「片手」取引を普通にやっているだけです。

数字に追われている不動産会社の営業マンたち・・・

法律に違反してまで「囲い込み」を行ってしまう。そこにはもう、お客様のためにとか、お客様の利益という「思い」はありません。もちろん、どの会社も口では「お客様のために」とか「お客様の笑顔を見たいから」などと耳触りのよいことを言っているのですが、言っていることとやっていることが違いすぎます。

 

しかし、大手不動産会社はそういうことをやらざるをえない事情もあるのです。大手は全国規模の広告を展開しています。テレビでCMを流す、雑誌に広告記事を打つ、ポストにひっきりなしにチラシを投函する・・・、そこにかかる費用は膨大なもので、その回収をしなければならない。それをかぶるのは末端の営業マンたちです。

 

「お前たち、片手の仕事なんかやっていたら広告費はどこから出るんだ!」と上層部から檄が飛ぶ。

 

「月末までに〇〇円を達成しろ!」

 

常に数字を言われるから、お客様の気持ちを汲む余裕がなくなってしまうんです。

 

「うちで売れなければほかのどこでも売れませんよ」

「申込書を早く書いてください」

「今買わないと、ほかの人にすぐに買われちゃいますよ」

 

営業マン自身が追い込まれているから、お客様をこういう言い方でせっつくしかないんです。不動産会社の営業マンのイメージがあまりよくなかったり、評判が悪いというのは、えてしてこういう背景があるからなのです。でも「だから仕方がない」という話にはなりません。ここはぜひ業界全体が猛反省し、改革していかなければならない部分だと思っています。

本連載は、2016年7月18日刊行の書籍『我が家を売る時も買う時も絶対に損しない方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

我が家を売る時も買う時も 絶対損しない方法

我が家を売る時も買う時も 絶対損しない方法

金子 徳公

現代書林

残念ながら今の不動産業界は「ウソ」や「ごまかし」が横行しています。目先の売り上げしか考えておらず、お客様に顔が向いていない営業マンがたくさん存在するのです。何故そうなるのでしょうか? それは、「不動産業界にはリ…

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