相続人間の公平を図る「特別受益」という考え方
「特別受益」というのは、相続人間の公平を図るために、被相続人の生前に特定の相続人が贈与を受けていた場合に、その贈与を考慮して相続分を決める制度です。
本件で、元気くんと星子ちゃんの学費や塾代などの5,000万円が太郎さんの特別受益になるとすれば、相続分を計算するための相続財産は、遺産の合計額2億5,000万円に太郎さんの特別受益5,000万円を加算して、3億円となります。
相続人は、太郎さんと花子さんの2人ですから、2人の相続分は、1億5000万円ずつということとなります。太郎さんはすでに特別受益で5000万円を受け取ったことになりますから、太郎さんが遺産から受け取る金額は1億円となります。花子さんは、相続分である1億5000万円を遺産から受け取ることとなります。
元気くんと星子ちゃんの学費や塾代などの5,000万円が太郎さんの特別受益とならないとすれば、相続財産2億5,000万円を2人で2分の1ずつ分けることとなり、太郎さんも花子さんも1億2,500万円ずつ、遺産から受け取ることとなります。
本件では、元気くんと星子ちゃんの学費や塾代を5,000万円も出していることから、これが太郎さんの特別受益かどうかで、太郎さんの相続分が2,500万円も違ってきてしまいます。
孫の学費の支払いは、息子への「特別受益」なのか?
それでは、孫である元気くんと星子ちゃんの学費や塾代は、太郎さんの特別受益となるのでしょうか。
法律の原則に従えば、陽子さんから見て孫である元気くんと星子ちゃんは、陽子さんの子どもである太郎さんとは別人格ということとなります。
したがって、孫である元気くんと星子ちゃんの学費や塾代は孫への贈与ということであれば、子である太郎さんへの贈与ではなく、特別受益とならないのが原則です。
しかし、本来、元気くんと星子ちゃんの学費や塾代を支払う義務があるのは、親である太郎さんです。陽子さんが学費や塾代を支払ったのは、元気くんや星子ちゃんに対する贈与ではなく、太郎さんへの贈与なのではないかとも考えられるところです。
この点について、古い判例があり、親が子の学費等を支払う義務を怠っているような場合に被相続人が代わりに学費等を支払った場合は、その学費の支払は親に代わって支払ったこととなり、親の特別受益となるとしています。
本件では、太郎さんが子どもの学費等の支払を怠っていたから代わりに陽子さんが学費や塾代を支払っていたというような事情はありません。
また、お金の支払も、直接学校や塾に振り込んでいたようで、太郎さんに渡していたという事情もありません。
したがって、「元気くんと星子ちゃんの学費や塾代は、孫への贈与であり特別受益とならない」とする選択肢①が正解で、「元気くんと星子ちゃんの学費や塾代は、本来親である太郎さんが負担すべきお金なので、太郎さんの特別受益となる」とする選択肢②は誤りとなります。
法律上の原則は、孫への贈与は、相続人であるその親の特別受益とはなりません。ただし、事情によっては、孫への贈与は実質的に相続人である親への贈与だと考えられる場合もあります。「これはどうなのか?」と思うことがあったら弁護士に相談し、相手方へ主張してみたらよいとは思います。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士
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