相続対策で祖父母との養子縁組と「未成年後見」の関係
弁護士会に未成年後見人の推薦依頼が来るケースに、【相続対策で祖父母との養子縁組をしたことによるもの】があります。
相続対策の養子縁組、というフレーズはよく聞くものの、未成年後見制度は馴染みがないという方が多いのではないでしょうか。でも、実はこの未成年後見人制度、養子縁組ととても深い関連があるのです。
未成年後見人とは
未成年の子どもに対し親権を行う者がない場合、親族等の申立により、その子の法定代理人となり、監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行う未成年後見人が選任されます。
後見開始の具体的原因としては、親権者死亡のほか、虐待親の親権制限等によるものがあり、この制度を知っているという方も、「適切に監護してくれる両親がいなくなってしまった子ども」のための制度だと認識していることが多いように思います。
しかし、適切に監護可能な実親がいても、未成年後見が開始するケースがあります。それが、養子縁組をしていた場合です。
養親が死亡しても、実親の親権は回復しない
養子縁組をした場合、未成年者の親権者は養父母となり、実親は親権者ではなくなります(民法818条2項)。つまり、相続対策のために祖父母がお孫さんと養子縁組をした場合、親権者は両親ではなく、祖父母になります。
そしてここが失念されがちなのですが、養子が成人する前に養親である祖父母が死亡した場合でも、実親の親権は回復しません。お孫さんが親と一緒に住んでいても、親に親権は戻らないため、「親権者がいない」状態になるのです。
親権者がいない場合、遺産分割のためには未成年後見人の選任が必要
相続人の中に親権者のいない未成年者がいる場合、遺産分割をするには未成年後見人の選任が必要です。
養親が遺言で実親を未成年後見人に指定することもできますが、後見人は裁判所に未成年者の財産状況等の定期報告をしなければなりません。実の親が自分の子どもの財産の状況について、裁判所に毎年報告するなんて不思議な状態ですよね。
また、相続で得た遺産など、お子さんの財産が多額になる場合には弁護士などの専門職後見人や後見監督人がつけられ、後見人や後見監督人の報酬(月額2万円~5万円程度)はお子さんの財産から支出することになります。
さらに、亡くなった祖父母の相続の際、後見人である実親も相続人の1人である場合には、別途特別代理人の選任が必要になります。
実親が親権を回復するには
養親との死後離縁を行った場合、実親の親権が回復しますが、裁判所の許可が必要です。
こんなことになるなんて聞いてない!を防ぐために
上記のとおり、養親との死後離縁という実親の親権回復方法がありますが、実際にはご親族が対処法を知らないまま遺言に沿って仕方なく後見人を続け、定期報告遅滞により裁判所と揉めてしまうケースもあります。
誰しも、お子さんやお孫さんにより多くの遺産を渡すために工夫した結果、ご自身が亡くなったあとでお子さんが「こんなことになるなんて聞いてない!」と困惑するのは本意ではないと思います。
相続対策のために養子縁組を行う場合、是非未成年後見や死後離縁のこともセットで検討をし、お子さん達にも対処法を事前に伝えてあげられるとよいですね。納得した上で方法選択ができるよう、必要に応じて専門家である弁護士にご相談下さい。
西野 優花
早稲田リーガルコモンズ法律事務所 弁護士
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